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春 ~回想~
出会いは四月。中学二年生、始業式の日。
彼女は式に出席せず、ひとりで教室にいた。
窓際で気だるげに佇んでいたのを、今も鮮明に覚えている。
先生が「葛西さん」と呼んだので、このとき彼女の苗字を知った。
五月。なんの前触れもなく、彼女が話しかけてきた。
「東さん。よかったら、朝顔の種を植えるの、手伝ってくれる?」
「葛西さん……。いいけど」
「嬉しい。東さん、これから璃々子って呼ぶね」
私のことは『操』と呼んでねと、彼女がほほえんだ。
私は目で追っていた彼女『葛西 操』を、名前で呼ぶようになった。
今、私は彼女を呼んでいない。話していない。ただ思い出すばかり。
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