初夏 ~種~

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初夏 ~種~

 五月下旬。花壇に行くと、学級が別れた彼女がいた。  十二月から疎遠になっていた私が近づくと、彼女は大きく目を見開いた。 「璃々……なんで」 「撒きに来ただけ」  私は握った手を開き、捨てられなかったものを見せた。  青い朝顔の種。  花言葉は『儚い恋』。 「私も」  彼女も舟形の種を持っていた。 「一輪だけ咲いた白い朝顔のよ。花言葉は」 「『固い絆』でしょ……(みさお)」  彼女がゆっくり、ほほえんだ。    青い朝顔は去年のように咲き誇るはず。  白い朝顔は今年どれだけ咲くだろうか。  夏が待ち遠しい。 (終) *白い朝顔の花言葉……固い絆、あふれる喜び ~朝顔の由来と白い朝顔について~  現代に知られる朝顔は、奈良~平安時代に中国から渡来した。  渡来した原種の花の色は、青色といわれている。 「朝顔」は和名で、語源は「朝の美人」を意味する「朝の容花(かおばな)」から。  なお最古の和歌集『万葉集』においても朝顔がいくつか詠まれているが、これは現代に知られる朝顔ではなく、桔梗の花という説が有力である。  古人は桔梗、木槿(むくげ)、昼顔など、朝に咲く美しい花をすべて「朝顔」と呼んでいた。  朝顔の花言葉は、品種や色によって変わる。しかしどの朝顔にも、絆や結びを象徴する花言葉がつけられている。  朝顔の花の色は、土壌や時間帯によって変化する。  そして白い朝顔は色を決める遺伝子が欠損している状態で、突然変異によって生まれるものである。  他からの受粉がない限り、白い朝顔の株からは、白い朝顔しか咲かない。
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