-優紀の章-

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-優紀の章-

~プロローグ~ -雨が降っている。 (早く止まないかな…) 僕は窓を打つ雨を見詰めながら、そんな事を思っていた。 部屋の中では眞司が僕をステルス為の理由を並べ立てている。 僕にとっては意味のない言葉。 そう。 あの日…あの時から、眞司が僕を捨てる事は決まっていた。 そう…知らないのは眞司だけ。 眞司はポツリポツリと僕を捨てる為の理由を並べ立てているが、もはや僕にとって意味のないその言葉は、僕の耳を素通りしていくだけ。 眞司も自分の下手な言い訳に気付いているのだろう。 先程から口を開いては閉じ、閉じては開いてを繰り返して、なかなか話が先に進まない。 …あの日から眞司が苦しんでいた事は知っていた。 そして、僕を捨てる事に罪悪感を覚え始めていた事にも気付いていた。 気付かない振りをしたのは、僕のほんの密かな仕返しと、少しの未練。 捨てられる覚悟は決まっていても、本当は少しでも長く眞司といたいから。 (思っていたより長かったけど…) 眞司も…僕と別れる事を寂しいと感じてくれているのだろうか…。 (…いや…それはないか…) 僕は心の中で自嘲する。 多分、僕に対して後ろめたさがあり、僕なんかいらないとすぐに言えなかっただけだろう。 (眞司らしくない) 僕の方はとっくに捨てられる覚悟はできているのに。 …この関係は、もうすぐ終わる…。 あの日から僕は自分の荷物を少しずつ片付けていった…いつ捨てられてもいいように…。 眞司の話が終われば、バックひとつで出て行ける。 行き先も決まっている。 後は眞司の最後の言葉を待つだけ…。 (…ごめんね…) 僕は眞司に心の中で謝る。 眞司を苦しめていると分かっていても、僕の方から離れる事はできなかった。 未練だね。 でも、それも今日で終わり。 (…今日で眞司は自由になれる) せめて、最後に涙は見せないでおこう。 これでやっと、眞司を苦しめていたものから、眞司を解放できる。 眞司はこれで自由になれる…。 自由に何処にでも行ける…。 好きな人のところへ…。 自由に…。 (早く止まないかな…) -雨は、まだ降り続いている。
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