不毛な恋を謳歌するのは

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さて、待ちに待った新入生歓迎会当日だ。天気は晴れ。五月にしては少々日差しが強いが、涼やかな風の吹く絶好の運動日和である。 俺は、心底、帰りたいが。 『ハローエブリワン!皆様お待ちかねの、新入生歓迎会の日がやって参りましたーっ!』 朝だと言うのに、テンションぶち上がるー!とルンルンで壇上に上がっていった和巻のテンションは、今年度最高潮である。本番に入れば、これが更に更新されることになるだろう。和巻という男は天井知らずなので。 『早速競技説明に入ります!新入生歓迎会は毎年、ダンスパーティーを行うのが主流でしたが、今年はなんと!生徒会長の計らいにより、ハラハラドキドキワクワクの鬼ごっこが開催されることになりました~!!みんな拍手~』 和巻の拍手につられて、生徒達からも歓声と拍手の音があがる。生徒の方も最高潮らしい。あちらのテンションが上がれば上がるほど、こちらのテンションは下がるばかりだが。新入生達が精一杯楽しめるように企画し、結果的に自分の首を絞めるように企画を作ったのは紛れもない俺なのだけれど。朝のせいか寝不足のせいか、イマイチテンションが上げられずにいる。何せこの先に待っているのはオレを含めた生徒会メンバーの地獄だ。そりゃあ憂うこともある。 『わは、皆拍手してくれんの偉いね。 ん"ん"っ、ルールは簡単!事前に配られている腕輪を身につけて、赤色の鬼役の人が、青色の逃亡者役の人を捕まえるだけ! 鬼役の人は逃亡者を捕まえれば捕まえる程点数が加点される、加点方式。逃亡者役の人は鬼に捕まれば捕まる程点数が減る、減点方式で行います。 逃亡者役の人は最初に持ち点を十点配布されるから、点数をなるべく減らさないように立ち回ってね~。最終的に点数がゼロ点になると失格で退場になります。 尚、点数によるランキングの計算は、鬼役と逃亡者役それぞれで行われます。それぞれ上位五名になった人達にはスペシャルな景品が用意されてるから、皆頑張ってね~! さて、ここからが大事なんだけど……なんと!生徒会メンバーがスペシャルモンスターとして登場します!生徒会メンバーは鬼役、逃亡者役に限らず、捕まえると持ち点がプラスされます。庶務の二人は五点、書記は十点、会計は二十五点、副会長は五十点、そしてなんと~会長は百点!大得点獲得のチャンスだから、皆頑張って狙うんだゾッ☆ちなみに生徒会のメンバーは持ち点を持っていないので、制限時間一杯まで鬼ごっこに参加してるよ~。 ってことで説明は以上!注意事項の方は風紀委員から説明してもらうから皆よーく聞いてね~。それじゃあ風紀委員と交代します』 終始ご機嫌な様子で説明を終えた和巻に舞台裏から拍手を送る。場の雰囲気を盛り上げつつ、説明するべきことはちゃんと説明する。やはりこういう仕事は和巻の方が上手い。 壇上から降りてきた和巻に労いの言葉をかけようと近づくと、オレが声をかけるよりも早く、和巻の方からオレに抱きついてきた。 「ひーちゃ~ん!どうよ!オレめっちゃ良い仕事したと思わなぁーい!?」 「だぁっ!離れろ暑苦しい!」 「ひーちゃんが褒めてくれたら離れるっ!」 「褒めようとしたらお前が抱きついてきたんだろうが!」 「えっそうなの?ごめん!」 「まったく……お前は良くやってくれたよ」 テンションを上げ過ぎだ。この様子では、本番が始まるともう誰にも止められなくなりそうだ。 「にしても、ひーちゃんが隠れる場所、ホントに舞台裏で良いの?」 「あぁ、ここはどこからも死角になっているし、逃げる生徒達は舞台とは反対側からのスタートになる。鬼役の生徒もそれを追いかけていくだろう」 「なるほどね~。灯台もと暗し的に、この場所が安全地帯になる訳だ」 「そういうことだ。そろそろお前も自分の持ち場に向かえ。実況、楽しみにしてるからな。ゆう」 「うん、楽しみにしててよ。皆にいっぱい楽しんでもらえるようにするからね。もちろん、ひーちゃんにも。じゃあね~!」 大きく手を振って駆けていく和巻に向かって、こちらも軽く手を振る。少し気合いが入りすぎているきらいはあるが、元が器用な男だ。多分大丈夫だろう。 『それでは注意事項の説明に入ります。 一つ、校則を破るような行いはしないこと。 一つ、テープを越えてエリア外に出ないこと。 一つ、持ち点を失ったら速やかに退場すること。 会場内は我々風紀委員と放送委員が監視し、トラブルが発生した場合は即座に対応できるよう準備しています。が、我々の出番がないことを願っていますよ』 注意事項の説明は、どうやら風紀副委員長の柏木が担当しているようだ。相変わらず、言葉に何処か棘を感じる。 柏木も自分の出番が必ず訪れる事になると分かっているのだろう。何せ、ダンスパーティーでもトラブルはつきものなのだから。その点、今回の鬼ごっこは初の試みである分、発生するトラブルの程度は未知数だ。なるべく対応できるように体制は整えたが、果たしてどうなるものか。 『それでは、皆様あまり羽目を外し過ぎないように、全力で楽しんでください』 『あーあー、マイクテステス。会場の皆聞こえてる?聞こえてそうだね。鬼ごっこの実況はこのワタクシ!和巻裕二が務めます! んで、何か音頭取ろっかなって思ってたんだけど、皆ウズウズしてるみたいだから、 ここに!新入生歓迎会、鬼ごっこの開催を宣言します! 逃亡者役の子達はにっげろ~!五分後に鬼役の子達がスタートするからね~!』 和巻のやつ、ウズウズしてたのは他の誰でもないお前自身だろうが。まぁ、発案者は和巻だからな。 何はともかく、鬼ごっこ開始だ。 俺も全力で逃げ回るとしよう。
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