不毛な恋を謳歌するのは

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生徒会室に入った瞬間、会長席の後ろの大きな窓から差し込む太陽光が寝不足の目にしみる。 緊急集会での一件以来、親衛隊長からは叱られ、生徒会役員のファンからは呼び出され、書類の提出や報告であちこち歩き回され・・・。疲労が溜まっているはずなのに最近はかえってハイになってしまい、寝つきが悪くなっている。 俺以外のメンバーには、学校に居る間処理しきれなかった書類は持ち帰りでやらせるようにしているので、仕事に遅れが出ることは無いんだが・・・。如何せん、一人でこなさなくてはいけない仕事が一気に増えてしまったからな。完全に自業自得なんだが。 放課後になった今、他の生徒会役員が朝持ち帰る分の書類の仕分けと、昼に追加で来た書類の処理と今日終わらせてしまえる分の仕事をやってしまわなくては・・・。 重要な書類やデータは機密扱いなので流石に持ち帰らせるわけにもいかず、役員の代わりに俺が全て片づけている。アイツらの恋路が今現在いったいどうなっているのか俺には情報が入ってこないので検討もつかないが・・・恋に慣れていない初心な連中だ、なかなか苦戦していそうだな。 しかし・・・アイツらの恋路を応援すると決めたが、果たして本当に応援していいものか、俺は悩んでいる。というのも、学園長から直々に転校生の学園生活を支えるようにとの命令があったため、余程信頼を集めているのだろうと思って、アイツらが居れば大丈夫かと流していた俺が悪いのだが・・・。 風紀委員でないにも関わらず、転校生の悪評やら器物破損の書類やらが入ってくる入ってくる。ドアの装置を壊しただの花瓶を割っただの理科室の備品が壊れただのなんだのと、はっきり言って転校初日から問題行動しか起こしていない。しかも生徒会役員がついているはずなのにその問題行動が止められていないのだ。 応援するとは言ったが、こうも問題行動が多いとな・・・。今は風紀委員長である神崎が対応してくれているが・・・部下の失態は俺の失態、恋は盲目と言うがいい加減生徒会役員には学園の代表としての行動をとってもらわなければ。でなければ神崎に合わせる顔がない。俺から邪魔するなと言っておいて俺が神崎の邪魔してるんじゃな。 なにはともあれ、今はとにかく書類の処理を進めてしまわなくては・・・。アイツらに渡す書類も多すぎると持ち帰っても処理しきれなくなるし、俺ができる範囲の書類はやらないと。 コンコン 「入れ。」 「失礼します。」 小柄な生徒四人組がそっと生徒会室に入ってくる。 「お前達は確か、光希の親衛隊の。」 「は、はい。」 「ぼくたちっ、ずっと、か、会計様のこと、」 「したって、きたのに、」 「うぅぅ~!」 泣き出した四人組の前に立って、ただ頭を下げる。 「お前達には苦しい思いをさせてしまってすまない。俺には、俺達生徒会役員を支えてくれているお前達に対して、慕ってくれているお前達に対して、感謝と、謝罪をすることしかできない。こんなことしかできない俺を罵ってくれてもいい。でも、どうかアイツらのことを応援してくれないだろうか。」 「顔をあげてください会長様。分かってるんです。慕っている方に好きな人ができることはとても喜ばしいことなんだと、僕達は知っているはずなんです。」 「でも、誰の傍にも行かなかったあの方達が、突然現れた転校生に心を奪われてしまったことが、どうしても認められなくって。」 「うぅ、ごめんなさい、本当は今日、このことを会長様に伝えたかったわけじゃないのに・・・。」 「何か、俺に相談が?」 そう聞くと四人組のうちの一人が溢れる涙をハンカチで拭いつつ、ゆっくりと口を開く。 「転校生の行動についてです。」 「問題行動が多いと聞いているが・・・。」 「はい。彼の問題行動に親衛隊に所属していない過激派の連中がどうやら親衛隊の名を騙って彼に制裁を加えようとしたようです。」 「なんだと?転校生はどうした。」 「転校生は喧嘩に強いようで、加害者側が病院送りになり、本人は無傷と言って良いほどだったのですが・・・このことに怒った転校生が事の全てを役員の皆様に話したらしく、現在会長様以外の役員の方々から親衛隊は敵視される立場にあります。」 何故・・・アイツらは親衛隊がそんなことをするようなものではないことを知っているはずだ。何故親衛隊に所属していない過激派の仕業だと考えない? 「転校生の言うことを丸呑みにしたってこと、だよな。」 「はい・・・。」 いくら転校生が好きといえど、この学園に入ってきたばかりの彼には間違いだってあるだろうに、今まで支えてきてくれた親衛隊ではなく、転校生の言うことを信じたのか・・・。 これは、本当にまずいな。 「そのことを伝えてくれてありがとう。生徒会役員には俺から話そう。」 「すみません、ありがとうございます。これからもお支えします。会長様。」 「あぁ。ありがとう。」
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