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昼休みの生徒会室。会長席に座る俺の前には生徒会役員全員が、いかにも不満ですといった表情で並んでいる。
「なんなんです?昼休みに呼び出すなんて。」
「せっかくあおちゃんと遊べる貴重な時間なのにさ~。」
「「そーだそーだ!」」
文句を言ったところでしょうがないだろう。お前らの監督不行き届きで転校生の行動が問題になってるんだから。
「お前らと転校生・・・城崎葵のここ最近の行動が目に余るんでな、急遽呼び出させてもらった。」
「はぁ?」
やはり司も転校生のこととなると面白いぐらいに顔を歪めるな。いや、面白がってはいけないのだが。如何せん取り繕った笑顔が多いだけに、こうも感情が表情に現れていると、恋というのは凄いものだと改めて思う。
「転校生の問題行動に関して、最近いくつもの報告書が俺の所まで届いでいる。」
「問題行動ってぇ?」
光希の方が表情では感情が読めないな。その代わりに声が若干震えている。怒りに近いもの・・・だと思う。おそらくは俺が協力すると言って、今ここで転校生の悪行を問いただしていることへの。
「昨日の件を例にあげるが・・・城崎葵の同級生に対する行き過ぎた暴行や、無断欠時・早退等が伝えられている。これについて説明はあるか?」
「最初の件に関しては制裁と称して暴行を加えられそうになったことへの正当防衛です」
「行き過ぎた暴行と言っただろう。正当防衛と言うならば、加害者のしようとしたことと被害者のしたことは、おおよそ対等でなくては正当防衛として認められない。複数箇所の打撲、骨折は明らかにやりすぎだ」
「なら大人しくやられていろとでも?」
「そうじゃない。お前たちが身の守り方を教えてやればいい。ただの暴力にならないように。全員護身術は身についているだろう」
特に努は護身術に関しては成績優秀だ。厳しい指導方針で知られている師範が、コミュニケーションが苦手であることを心底勿体なく感じている程に。護身術は身を守る力だ。心を守るには、言葉が必要だ。
「無断欠時・早退は?」
「べっつに~」
「遊んでただけだし~」
「・・・転校生が特待生として入学しているのは知っているか」
「え?転校生なのにぃ?」
「彼は理事長の甥だからな。特別待遇というやつだろう。だが、特待生には定期テストで学年10位以内を取り続けなければならないという条件がある。今、無断欠時・早退を繰り返している彼が、次の中間テストで一体どれだけの点数を取ってくれるんだろうな?」
「そんなの、私が教えれば!」
「想い人の行動全てを肯定するな」
好きな人の行動に問題があるなんて誰だって認めたくはないものだ。だが、それでも認めてはいけない。自分が本当にその人のことが好きだと言うのなら尚更。
「お前達が本当に転校生のことを好いているのなら、彼の行動全てを肯定するだけの人間ではなく、彼の行動を正してやれる人間になれ。100%正しい人間なぞ、この世には存在しない。彼がいつの未来か孤立してしまう前に、お前達で支えてやれ。恋人になりたいと言うのなら、まずは友人からだろう?」
「・・・」
唇を噛み締めて、司、空、陸、光希の順で退室していった。そして一人残った努は、俺の方をじっと見ている。
「どうかしたか」
「ご、めん」
「何でお前が謝るんだ」
「嫌な、役まわ、り、させた」
「お前は優しいな。言いそびれたことがある。あいつらに伝えてくれ。親衛隊の名を騙って制裁をする過激派と呼ばれるもの達が増えている。親衛隊との連携を改めて取るべきだと。もし口で話しづらいようならメールでも構わない。頼まれてくれるか?」
「うん・・・!」
先に出ていったメンバーを追いかけるように、努も退室していった。
「どうにも、疲れたな・・・。一度寝るか」
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