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「ん、んん・・・?」
寝惚け眼で周囲を見渡すと、眠る前まで生徒会室の天井だったものが、仮眠室の天井になっていた。俺の記憶が正しければ、生徒会室のソファーで横になったはずなのだが。
「起きたか」
「・・・神崎!?」
振り向いた先に見えた顔に思わず声が裏返りそうなほど驚いてしまう。
「生徒会室に寄ったらソファーの上で寝ていたから体を冷やすと思って連れてきた」
なんてこと無さそうに言うが一応鍛えているこの俺をどうやってその涼しい顔で運んだんだ。いやそもそもなんで神崎が生徒会室に来るんだ。いつもなら風紀委員長は忙しいからと、生徒会室に連絡に来るのは副委員長の役目なのに。
それに体を冷やしたところで問題がある程弱い体ではないし、冷やしてはいけないにしてもブランケット程度で良かったんじゃないか。
寝惚けていた頭がが想い人が居る驚きのために勝手に覚醒する。
何もかもを聴きたいが、どこから聴けばいいのか分からずに言葉が出てこない。
「根を詰めすぎなんじゃないのか」
「そ、んなことは・・・」
「ない、とは言わせないからな」
そう真っ直ぐ見つめてくる神崎にバツが悪くなって目をそらす。目の下にこびりついた隈も身なりを整える一環としてメイクで誤魔化しているが、神崎にはおそらくお見通しだろう。
最悪だ。こんなみっともない姿、神崎には見せたくなかったのに。
仕事の遅い自分が恨めしい。
「八分の一だ」
「は?」
「あの集会の日から、お前以外の生徒会役員の仕事が八分の一にまで減っている。その分の仕事を全てお前が肩代わりしている状態だ」
「書類の提出が期限ギリギリになってしまっていることなら謝る」
「そうじゃない。自分の身を削ってまで役員の仕事を引き受ける必要はないという話だ」
まさか、心配・・・しているのか?あの神崎が?
それに気づいた途端に居心地が悪くなる。腹の底から何かがせり上がってくる。嬉しがるな馬鹿。嬉しがるんじゃない。
神崎はあくまで生徒会が機能しなくなることを危惧しているだけだ。そこに特別な感情なんか無いんだ。生徒会が機能しなくなればそのしわ寄せが全て風紀に行く、ただそれだけで。
分かっているのに、沸き立つ感情が抑えられない。こんなことでこうも感情が揺さぶられるとは、惚れた弱みだな、これは。
だが、これ以上俺の仕事を減らす訳には・・・いや、彼奴らの仕事を増やす訳にはいかない。
「心配をかけたのならすまなかった。だが、俺一人でも問題なく仕事は回せている。気にしなくていい」
「そのやつれた顔でよく言えるな?」
「ぅぐ」
「そもそも何故お前がそうまでする必要がある?」
「・・・応援する、と言ったからだ。彼奴らには、好意を寄せる相手をちゃんと傍で見る時間が必要だ。俺にはそのための時間を作ってやることしかできないから、そうしている」
単純に彼奴らの恋路がどうなるのか気になるのもある。特に司は俺や神崎程ではないが恋愛に関して自由が効かない立場にある。それを分かっていてもなお転校生との恋愛の道を選んだ司を、他のメンバーには悪いが俺は贔屓目で応援している。俺に似ているようでまだ叶う可能性のある司の恋が実ることを祈っている。
だから俺にできる限りのことをしてやりたい。
「はぁ、それでお前が体調を崩したら元も子もないだろう。人を頼れ藤堂。頼る相手が居ないなら風紀から貸してもいい」
「風紀は駄目だ。お前達にはいつでも万全の状態で居てもらわなければ困る」
「つまり万全な状態で居られないほどの仕事があると?」
「ぅ、と、とにかく人の手を借りればいいんだろう?各親衛隊長に日替わりで協力を要請するようにする」
各親衛隊長なら一般生徒の枠組みではないから生徒会の仕事を任せられるし、何より普段関わっている相手なので信用もできる。文句は言われまい。
「まぁ、いいだろう。俺は戻るが、くれぐれもやりすぎるなよ」
「あ、あぁ」
仮眠室から出ていく神崎の背中を見送る。腕時計を確認すると、丁度五時間目が終わるくらいの時間になっていた。昼休みの半ばぐらいに寝たから、一時間程寝ていたのか・・・。
まてよ?神崎は確か風紀の特権を使わずにちゃんと授業に出ていたはず。それなのに目が覚めた時ここに居たということはまさか、俺が起きるまで待っていたのか?
「・・・ッ!」
マズイ、マズイなこれは。一気に羞恥心が芽生えてきた。とにかく各親衛隊長には放課後に協力要請のメールを送るとして、神崎には今度改めて礼を持っていこう。
もう二度と神崎に迷惑はかけない。
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