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勢いに任せて親衛隊長に頼ると言ったものの、生徒会と転入生の一件でかなり面倒をかけているので余り頼りたくないところではある。俺が相談役を引き受けると宣言したところで、勿論中には俺と直接話せない者もいる。そういった者達の相談役を引き受けているのが各親衛隊長で、忙しさで言えばオレとそう変わりはないのだ。だが、生徒会の書類は一般の生徒には公開できないものがほとんどなので任せられる人間は数少ないうえに、俺が誰にも頼らずに一人で仕事を続ければまた神崎に何か言われるのは目に見えている。板挟みもいいところだ。
協力要請のメールを打ち込んだまま送信せずにはや十分。どうにか頼らずに解決する術はないものかとずっと考え続けている。
俺は決して能力のない人間ではない。が、膨大な数を前にして一個人の力などたかが知れている。このままいけば潰れてしまうことは自分でもわかっている。今俺が潰れれば結局皆に仕事を任せることになってしまう。
「…どうにか効率を上げられないだろうか。」
机の上の書類をパラパラと捲る。神崎が出ていった後、仕事を再開しようと生徒会室に戻ったら机の上にあった書類が半分にまで減っていた。神崎が俺のサインの要らない分の書類を片付けてくれたのだろう。風紀だって俺達生徒会のせいで忙しいだろうに、申し訳なさが積もる。
俺も神崎のように優秀だったなら。彼奴に努力で追いつけるほどの才能が少しでもあったなら。いや、無いものを嘆いたところで仕方がないな。俺は、俺にできる事をやるしかない。
各親衛隊長に頼るわけにはいかないが、ようはそれなりに地位のある者に協力を頼めばいいのだ。それでいて暇そうな奴なら一人だけ心当たりがある。
五十音順に並ぶ連絡帳を一番下までスクロールして表示された名前に電話をかける。
「もっしもーし!珍しいねえ会長様から電話とは!なになにどうしたの?もしかして俺も恋に忙しくなっちゃた的なwktkニュース?何それ青春キャーッ!!あっ青春と言えばこないだ同クラの鈴木くんが、」
「やかましい」
「はい」
ワンコールもかからないうちに電話に出る上ここまでノンストップで口が回るとは、口下手な俺からすれば羨ましい才能だがやかましいことこの上ない。
和巻裕二。放送委員の委員長だが、放送委員の主な仕事は学校行事中のアナウンスやイベント事の実況なため、比較的自由にしている男だ。自由にしすぎて放送機材を「ゲーミング放送室!」と七色に輝かせた時は流石に反省書を書かせたが、自由奔放を抜きにすれば俺よりも優秀な部類だろう。視野は広いし頭の回転も早い、加えて口上手なので人を動かすのも上手い。奔放さが全てを無に帰しているが。
「それでそれで?和巻くんに何かご用事?」
「あぁ……頼み事があったんだが、今別の誰かに頼もうかと思っていたところだ」
「友達いないのに?あっ、ちょっとまって殺されそうな予感がしたジョークです!頼み事ってすっごく気になるなー!!今なら何でも聞いちゃうかもー!!」
「言ったな?」
「やっべ口滑らしたかも」
ひとまず黙るように言い渡して事の顛末を説明する。といっても妙に情報の早い和巻ならもう既に知っているであろうことばかりなのだが。
「ははぁ、なるほどねえ。んー、手伝うのは吝かじゃないんだけど一個だけいい?」
「何だ」
「オレのことまきちゃんって読んでみて♡」
「ほかの宛を探すことにする」
「あーんなんでさ!オレら幼馴染みよ!?今じゃこーんなに厳つくなっちゃった幼馴染みの可愛かった頃を愛でたいお年頃なの!たった一言言うぐらいしてくれてもよくなーい!?生徒会の仕事超超超ハードなんだし流石のオレにも活力ってものが必要なんだけどそこら辺どうよひーちゃん!」
「……ん、あぁ、話終わったか?」
「何も聞いてないし!!いいよいいよ手伝いますよ!精一杯働かせていただきますともさ!!」
「あぁ、明日から早速頼む。それと次ひーちゃんと呼んだら殺すつもりでいるから心しておくように。ではな」
「オレの話聞いてたんじゃんちょっとまって明日って、」
通話を切って机の上に画面を伏せる。大した時間話していたわけではないのに、どうにも疲れた。が、何はともあれこれでひとまずは俺が一人で仕事をする必要はなくなったわけだ。神崎の要望は満たしたのだから、これでまた迷惑をかけるような事はないだろう。
「ふー……」
全身の力を脱力させて椅子にもたれかかる。俺一人になった生徒会室は無駄に広い上に息が詰まる程静かだが……明日からまた、賑やかになりそうだ。
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