遠方に投げ捨てた夢を拾う

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給与明細を見て、地味にほくほくとまではいかないが、それなりに明るい気持ちに、微々たるものだが、給料が上がったのだ。 下がることはあっても、数百円のアップでも喜ばしいというのに、驚くことに二千円。 これは凄いことである。 四月から給与形態に変更があったらしい。 前職の経歴が加算されるのだという、上司の言葉に、はあ、と気のない返事をしたのは昨年のこと。 その頃ちょうど自身の進退に悩んでいた僕は、というのは、世話になってきた先輩が今年は更新をしないかもと言ったからである。 何故?と思うよりも早く、ああ当然だ。という気持ちが、すとん、心に落ちた。 ブラック企業の定義など、人それぞれであり、結局のところ誰もが認める、例えばそう、社会的に抹殺されても良いレベルの企業もあれば、一個人にとってはブラックだとか。案外、幅は広いものだ。 今のご時世、真っ白な穏やかな優しい人に満ち溢れたやりがいもあって残業もなくて休みもあって有休消化を推奨しながらも給与が良いなんて、ちょっと脳内で呟いてみるだけでも、夢物語感が凄まじいと思った。 というのか、理想のお嫁さん、みたいな、右も左も、何も分からない幼子が口にするような、歌でも歌うように、口付けするような優しい憐みだった。 基準判定は、側溝に流してしまおう。 ごうごうと、流れていく濁流を、僕は好きだった。
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