特注人間ペット #01

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特注人間ペット #01

近年、テレビをつけると、事件や政治のニュースばかりが目に付く。 特にやることもなく、途方に暮れる日々が続いている。 外を歩けば人が賑わっているのに、俺は自ら苦しい想いをしてまで人ごみの中には出たくない派だ。そんなにぎやかな都内のど真ん中ではなく、端の端の方にぽつんと建っている木造のアパートがある。徒歩5分圏内には公園くらいしかなく、コンビニまで行くには10分ほど歩かなければいけない。 そんな楽しいことなんて一つも起きる気がしないこの空気漂う中、テレビの前でぼーっと間抜け面してる自分が、テレビ画面の切り返しで映った。 「はーっ…びっくりした…なんか見覚えのある顔が映ったかと思ったら、俺かよ。ったく…」 古賀 北斗 / 23歳 / 男 前職場の人間関係が合わなさ過ぎて、辞めて2か月。 現在はフリーター。夜勤で高時給で雇ってもらえた工事現場のバイトを挟みつつ、高校卒業後から働き始めて貯めていた貯金と今のバイトで、なんとか通常の生活を送れている。 「そういえば、この前注文したあれ、今日届くんだっけか…?」 先日、深夜のテレビを見ながら、普段見たことのなかった通販番組を見て、ふと購入の電話をしていたことを思い出した。 「思えば、番組名も商品名も怪しかったな…。本当に届くのか?」 考えれば考えるほど心配になったが、テレビのスクリーンショットを取っていたことを思い出し、画面には誰一人とも映っておらず、紫の背景に黒い文字だけ表示されていた画像を取り出した。 ――――――――限定配信―――――――― 【深夜の宝箱】 ~5分限定の特別案内~              ◎本日だけの限定品◎ 『特注人間ペット』¥50,000 ・ペットを飼ってみたいけど、動物は飼えない…! ・一人暮らしで誰かそばに居てほしい…! ・家事は誰かにお願いしたい…! など、多く欲してるあなたにだけ勧めたい! もし、何でも言うことを聞く「特殊な人間」がいたら…どうしたいですか? ※住民票は必要ありません。 ☆先着○名様限定!!(数体限定販売)  購入希望者はお電話番号(0120-XXX-XXX)まで! ――――――――――――――――――――― 読めば読むほど、怪しい内容だ。 だが、俺はその広告を見た途端、迷わず電話していた。 藁にも縋る想い…とはこの事だったのかと思うくらいだ。 動物は苦手。人間は嫌いではないが、仲良くなるまでに時間がかかる。 家で一人だと話すことがなく、自分の声を聴かないまま一日が終わる事もしばしば。俺だって、誰でもいいから、ふとした時に声をかけてほしい時だってある。家事も得意な性分ではなく、一人暮らしをなくなくせざるを得ない訳で… 嘘でもいいから、と頼りたくなっていた自分がいた。 電話先の女性「ご連絡ありがとうございます!こちら特別受付となりますので、ご要望をお話しください」 俺「あの…俺、深夜の宝箱?を見て…この、特注人間ペット…?を注文したいんすけど出来ますかね…」 電話先の女性「なんと…ご覧になった後すぐのご連絡ありがとうございます!お客様は一番のお電話をゲットできた幸運な方ですね!」 俺「あ、そうなんすか。えっと、あざます…」 電話先の女性「お電話にて失礼ですが、早速、発送の手続きを取らせていただきます。お名前とご住所をお伝えいただけますか?電話番号は頂いたもので自動登録させていただきます」 俺「あ、はい。名前は、えっと こが ほくと で、漢字は、古き新しいの「古」に年賀状の「賀」、北斗七星の「北斗」で…、住所は 東京都○○区○○ XX-X △△荘102 です」   電話先の女性「承りました。とても大事な大切な商品ですので、明日配送・時間指定禁止。特別輸送のため再配達NG、お支払いは現金支払いのみの代金引換となります。予めご了承ください。説明書をよくお読みになり、大事にしてあげてくださいね」 と物腰柔らかく、少し意味深にも聞こえるような口調で伝えられ、電話を後にした。注意事項は多かったが、あまりに魅力的な商品だったため、真面目に聞き、大事な箇所はメモに残した。 あの時の電話、録音しておけばよかったかな…? なんてふと心配がよぎったその時、玄関のチャイムが鳴った。 時計は夕方の4時を示していた。 「はーーーーい」 ちょっと前には居留守を使った方がいい訳の分からん宗教の勧誘など多発した時期もあったが、ここ最近は自分の頼んだ出前や宅配関連しか来ないのを実感している。 そのため、元気よく声も出る訳で… 「こちら古賀様のお届けで宜しかったでしょうか?」 「は、はい…っ、合ってます!」 「商品代50000円と押印をお願いしても良いですか」 「…これで」 「こちらお部屋までお運びします。ありがとうございましたー失礼します」 流れるように去っていった宅配のお兄さんは慣れた手つきで、玄関から台所を真横に通り過ぎ、真っ直ぐ入った先にある、俺の部屋まで持っていき、等身大の大きさの荷物を運び、丁寧に置いてってくれた。 やっと届いた…! 少し大金をはたいたが、内容に比べたら安いようにも見えた。 ドキドキとワクワクが交互し、緊張し封を開けてみると… そこには目をつぶった150㎝前後の髪の長い黒髪の女の子が立っていた。 「うわっ…まじか、めちゃくちゃ可愛いんだが…」 体系は細身な方だが、女の子らしい肉付きがあり、胸からお尻までの曲線美を見て、鼻の下が伸びているのが分かる。 服は黒のキャミソールと、黒のショートパンツを着用しており、陶器のような白い肌が艶めかしい。 「肌の質感とか、めちゃくちゃリアル…!」 クオリティの高さに圧倒されていると、 ふとその子が大事そうに抱えていた紙に目がいった。 ■こちらは「特注人間ペット(ドール人間)」でございます  あなたの願いを何でも叶えることができ、希望の姿が随時反映されます  あなたのペースに合わせて、より良いコンディションを保ちます。  ご希望前には、真正面に立ち、目を閉じ、願いを唱えながら5秒数え、  その後ゆっくりと目を開けてください。  目を開けると、そこにはあなたの願いが詰まっているでしょう。  あなたの疲れを少しでも癒せますように…」 商品についての説明や、何か困った際の対処方法など、細かく書いてある紙も同封されているが、届いた箱に入れたまま、クローゼットに入れておこう… こういうのは困った時に見るに限る…、説明書なんて読まず、早く目の前の楽しそうなおもちゃに触れたくて仕方ない気分だった。 「どうやって動くんだろ…?あ、箱の裏になんか書いてある」 ================= ※初回時には、両足の湧泉を同時に押し、起動させてください  起動後、10秒間見つめあってください。  あなたのパーソナル全てを理解し、一番の理解者となるでしょう ================= 漢字から予想するに、ゆう…せん?って読むのか? どこだ…?すぐに携帯で調べてみる。 どうやら足の裏の真ん中にあるツボらしい。 「ではでは…早速…」 その場にしゃがみ、指示通りの場所を押すと、静かに息が聞こえた。 すぐ真上を見上げると、そこには俺を満面の笑顔で覗いている女の子がいた。 くっきりな二重、ぷっくりとした涙袋、整っている白い歯… 全てが完璧だった。すかさず俺は指示通り10秒、目を合わせた。 「初めまして、ほくとさん!これからよろしくお願いします♪」 「あ、初めまして…!えと、俺はなんて呼べば…?」 「私はあなただけのものなので、【まい】とかどうですか?」 「いい、それいい!ありがとう…!」 「緊張せず話せるようになるまで時間がかかるんですよね?ゆっくりで大丈夫ですよ!」 「(うぅ…凄く優しい…!)好き(ボソッ)」 俺の事を何でも包み込んでくれる気がしたその優しさに、端正な容姿と可愛らしくおっとりした声が合わさり、俺は口から勝手に言葉が漏れるくらいには、出会ったばかりのまいに心奪われてしまっていた。 「ほくとさん?私も好きですよ…?」 「ほ、ほんとに…?」 「本当です。なので、ほくとさんのしたいことがあれば…なんでもして欲しいです」 本当か、嘘か、そんなの関係なかったが、俺に狼のスイッチが入ったとしたら、ここだった。 「これから、なんでもしてくれるんだね?まずは、俺のそばまで来てくれる…?」 「はい…!」 俺が手招きをすると、目の前でちょこんと座る姿が愛らしい。 「床じゃなくて、俺の膝の上に乗って?」 「わかりました…!」 俺が膝をぽんぽんと触ると、背中から?正面から?と焦る姿があまりに可愛らしくて、初めての密着に緊張もあってか、背中から座るように促し、後ろから抱きしめる。 心地よい温もりと生々しい身体に、一瞬ドールということを忘れそうになるくらい、質感が人間そのものに感じた。
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