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沢山の荷物で丸くなったカーキ色のリュックサック。横には大きなブリキの水筒が吊るされている。キャスケットは灰色で、麻のシャツは質の悪いものであったが、上に重ねたコートのおかげで、その冷たい空気にも耐えられるように思われた。
男は森の入り口に立っている。数年前までは少年と呼ばれていたような若い男だ。木々の隙間から白い光が射し込むその中にいる。
一面には掬ってポケットにしまい込めそうな程に濃い霧。だから光は辺りを照らさず、男を囲う白色をただただ濃くするばかり。草木と土の匂いが、湿ったせいで強く香っている。
男はここへ来る何日も前から、準備を進めていた。この森を語れるのはこの森へ抜けた事のある者だけで、当然村に暮らす者の中にそんな人間は一人もいない。酒を飲めもしないのに毎日村の酒場を渡り歩いたのは、そこで旅人と出会い、森の情報を集めるためであった。
この森で最も大事なのは味方を探す事だ。ある旅人は言っていた。寧ろそれ以外の事は何も役には立たないのだという。この森が見せるものは足を踏み入れた者の心なのだから、と。
なるほどそれを思えばこれまで話を聞いた旅人の、語る景色がどれも違っていた事にも納得ができた。森がこんなにも深い霧に包まれるのならば誰かが口にしそうなものなのに、そんな話は男もまるで聞いていなかった。どうやら味方を探せという言葉は偽りではないようだ。
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