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釣り具の小冊子
父の書斎の本棚に、釣り具の部品を納めた薄い草色のキャンバス地の小冊子がある。ハガキの大きさよりひとまわり大きなぶ厚い冊子だ。ページのひとつひとつは薄い草色のキャンバス地を使ったページでできていて、各ページが透明な薄いビニールのシートでおおわれている。その中に、釣り糸や、釣り鉤、釣り鉤に釣り糸を結束する見本、重り、擬餌鉤、毛鉤など、釣りに必要ないろいろな物が納められ、隣のページに、その使い方とそれらを使って釣る魚の説明が書かれている。
父の書斎に行くたびに、ぼくは本棚からこの冊子を引きだして、どんなふうに魚を釣るかいろいろ想像した。
ぼくは池の魚は生臭くて好きではない。我家には池が三つあって錦鯉を飼っている。錦鯉が水面をはねると、池から生臭い錦鯉の匂いがする。この匂いはいつになっても慣れない。だから魚釣りに興味なかったし、川へ行くのも好きじゃなかった。ぼくは魚釣りをしたことがなかった。
しかし、父の書斎で釣り具の部品が納めたあの冊子を見てから、釣りに興味を持ちはじめていた。魚に興味はなかったが、釣ることに興味があった。
初夏になって貯水池や農業用のため池の水が温まったころ、小学校の同学年の友だちが、溜め池で釣りをするというのでついていった。友だちはフナを釣るといったが、何時間待っても浮きは動かず、何も釣れなかった。友だちはその溜め池に何がいるのか知らなかった。このとき、ただ待つだけの浮き釣りは、とてもつまらないと感じた。
何も釣れないので釣りをやめ、溜め池の近くの林から丸太や灌木を集めて筏を作って溜め池に浮かべてあそんだ。子どもひとりが乗るだけで半分沈んでしまうちっぽけな筏だった。友だちはゲラゲラ笑いながら筏に乗っていた。
こうして遊んでいても、ぼくはちっともおもしろくなかった。なぜ、おもしろくないのか、理由はわからなかった。
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