タタキ釣り

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 稲刈りが終り、赤とんぼの姿が少なくなった日曜の朝。  父に話して、タタキ釣りの竿を持って釣りに行った。  渓流に垂れた柳や楓はすっかり黄色や赤に色づき、ナナカマドの実が赤く朝露に濡れていた。渓流の上は橅や楢の黄色や赤茶の梢に変っている。  渓流を見ると、水中を流れるゴミなどを追う魚が見える。水が澄んでいる。水温が下がって、水に溶けてる物が少なくなっているのがわかる。  イワナはヤマメより警戒心が強い。流れの中程まで出てくることはあまりない。川底の石の陰に隠れながら動きまわるという。それなら、ゴミなどを追うのはヤマメだ。  タタキ釣りの毛鉤を餌釣り用の釣り鉤に変えて、持ってきたミミズに釣り鉤を通した。そして流れの上流からミミズを流す。すぐさまミミズめがけて魚が現れ、あっという間に釣れた。二十センチほどのヤマメだった。  その後、同じ流れの近くでヤマメが二匹釣れた。  そろそろヤマメは産卵期になる。そのために食える物はなんでも食う、鮭科の魚の習性だ。ヤマメについて調べたら百科事典にそう書いてあった。  ぼくはヤマメのそうした習性にかこつけて、ミミズで餌釣りしている。産卵期を目の前にしてトンボやバッタなど昆虫や、カエルなど両生類や、あげくはヘビなどまで、なんでも食う鮭科の魚はあさましいと思った。  そして、それにかこつけて餌釣りしているぼくは、もっとひどいことをしていると嫌な気分になっていた。  そう感じたら、ヤマメを釣る気が無くなった。  ぼくは釣ったヤマメを川にもどし、すぐさま釣糸を竿に巻きつけて、川岸から、来た道をもどって家へ歩いていた。
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