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急流の魚
夏休み。
兄や近所の中学生や小学生とともに、近くの渓流に水遊びに行った。
水中メガネをして腰くらいの深さの渓流に潜ると、流れが速い石の下や石の下流に、ウグイやオイカワ、ヤマメやイワナなどが、急流から身を避けるように浮遊していた。
家で図鑑を調べると、川魚は、日中はこうして、急流の中の大きな石の下や影に身を隠し、流れてくる虫や川底の水棲昆虫を食っているとあった。
ぼくは、水中メガネをして水中に身を沈め、下流から大きな石に近づいて、そうした川魚の動きを見つづけた。川魚の動きは見ていて少しも飽きなかった。
ちょっと流れが緩やかな浅い渓流の川底には、石ころと見わけがつかないように身体の色を変えたカジカや、吸盤のような胸びれで急流の大石にくっつきながら移動するヨシノボリがいた。
カジカの名は父に訊いて知っていたがヨシノボリの名は知らなかった。
ヨシノボリの名を知ったのは、テレビの番組で琵琶湖水系の水棲生物の特集をしていた時だった。ここに登場したのがヨシノボリだ。そして、カジカに似たドンコというのがいるらしかったが、ぼくにはカジカとドンコの区別がつかなかった。濃いめの茶色でエラにトゲトゲがある五センチほどのがカジカで、それより少し大きめで灰色のブチのがドンコだったのかも知れない。
カジカもヨシノボリもハゼ科の魚だ。アンコウのようないかつい顔のカジカより、ツルンとした、穏やかでノホホンとした顔のヨシノボリは愛嬌がある。
石の色に擬態してじっと川底の石にまぎれて身を隠しているカジカが、突然、石が動いたように川底を移動するのにくらべ、ヨシノボリは、吸盤のような胸びれで石にくっつきながら、急流中の大きめの石の上をツンツンと移動する。ヨシノボリの移動は、有明海のムツゴロウが泥の上をツンツン移動するのに似ている。ちょっと滑稽だ。
ぼくが急流でよく見るカジカは川底の石に似た灰色と茶色のブチの色合いのが多かった。ヨシノボリは少し緑色がかった灰色で、ヒレには少し黄色いような線が入っていた。
カジカもヨシノボリも、渓流の川底の石の色や、渓流の少し大きめの石の表面の色に擬態していたのだと思う。
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