サナトリュウムの土産

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サナトリュウムの土産

 小学五年のころ。  父の書斎に、本のほかにぼくの興味をひくものがたくさんあった。  そのひとつが薄草色のキャンバス地の小冊子だ。これは、釣り具の部品を納めた、ハガキの大きさよりひとまわり大きなぶ厚い冊子だ。  もう一つ興味をひいたのは「古代日本人の生活」という本だ。  ぼくの家のまわりからは古代の石器や土器がたくさんでた。父の話によると、田畑の土地改良の時、石器や土器が出土したが、そのことが役所に知れると、発掘で土地改良作業が遅れるから、石器や土器が出土しても、そのまま土地改良作業を続けたと話してくれた。学術調査より、農業利益が優先された時代だった。  そして興味をひいたもう一つは、大人の親指の爪ほどの岩石が納められた、岩石標本だ。岩石標本は、ぼくが小学校へ入ったころ、教員を務める父が夏休みに出かけた際に、土産に買ってきた物だった。  父は学校が夏休みになると、毎年出かけていって夏休みが終るころ帰ってきた。小学校低学年のころのぼくは、父がどこへ行くのか知らなかったが、高学年になるにつれ、父が毎年、海に近いサナトリュウムへ入院していたのを知った。
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