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病院の自転車置き場に自転車を止め、桜の木の下を走って面会用の出入口へ向かう。
そのときわたしは「あっ」と声をもらして立ち止まった。
少し先の木の下で、車いすに乗った樹くんが、わたしに向かって小さく手を上げたから。
「樹くんっ……」
わたしは制服のスカートを揺らして、樹くんのそばへ駆け寄る。
「迎えに来ちゃった」
ちょっと照れくさそうな顔で樹くんが言う。
「病院、暇すぎて」
その言葉にわたしがふっと笑うと、樹くんもかすかに頬をゆるめた。
わたしたちの立つ木の下の向こうは、中庭になっていた。何人かの入院患者さんたちが、散歩をしたり、ベンチに座ったりしているのが見える。
「押してあげようか?」
「大丈夫だよ。自分でできる」
樹くんは小さく笑って、自分で車いすを動かす。そしてちょっと自慢げに、わたしに振り返る。
「うまいもんだろ?」
「うん」
「歩く練習もしてるんだ。早く直して学校に戻らないと」
「そうだね」
車いすの樹くんと並んで歩く。少し進むと小さな池が真ん中にある、中庭に着いた。それを囲むように、ぐるりと桜の木が並んでいる。
わたしは立ち止まって、上を見上げた。桜の木を見下ろすように、高い建物が建っている。
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