第11章 会いたい

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 あの七階の病室から、尊くんと桜の花を見下ろした。  学校に行けずに落ち込んでいたわたしを、尊くんが元気づけてくれたのだ。  あのころ尊くんだって、学校に行きたかっただろうに。  尊くんはいつだって、自分のことより他人を大切にしてくれるひとだった。 「美桜」  すんっと鼻をすすったわたしを、少し先で止まった樹くんが見ている。わたしは視線を下ろして樹くんに近づく。 「美桜。これ、返すよ」 「あ……」  樹くんが差し出したのは、わたしが小説を書いたノートだった。  わたしは恥ずかしくなって、うつむきながらそれを受け取る。 「美桜、おれはさ……」  樹くんがすっとわたしから目をそらす。 「ずっと自信がなかったんだ」  わたしはノートを抱きしめる。樹くんの声がじんわりと胸に染み込む。 「尊には勝てないって……ずっと思い込んでた」  ふっと息をはいた樹くんが、うつむいて自分の足を見下ろす。 「いまだってこんな足だし、たったひとつ続けてきたサッカーもできないし、情けなくてすぐ涙が出るし、好きになった女の子に自分の気持ちを伝える勇気もない」  樹くんがまたゆっくりと顔を上げる。そばに立つわたしと目が合う。 「勇気が……なかったんだ。それを尊のせいにして、逃げてばかりいた」  わたしは黙って樹くんを見つめる。 「美桜から……逃げてたんだ」  涼しくなった風が吹く。わたしたちの上にある、緑の桜の葉がさわさわと揺れる。少しだけ伸びたわたしの髪も揺れる。
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