第11章 会いたい

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「樹くん……」  樹くんは一度目を閉じてからそれを開き、真っ直ぐわたしの顔を見つめて言う。 「ほんとは美桜に、他のやつの告白なんか断れって言いたかった。おれ以外のやつとつきあって欲しくなかった。ずっと……好きだったんだ。美桜のこと」  樹くんの頬が、ほんのりと赤く染まる。きっとわたしの頬も、赤くなっている。 「まだ小学生だったころ、はじめて尊から美桜のことを聞いた。それから尊と一緒に美桜への手紙を書いて、美桜からくる返事がすごく楽しみだった。尊が亡くなったあとは、このままずっと尊のふりをして手紙を書こうと思っていたけど……でも無理だった。美桜に会いたくて……それで会いたいって手紙に書いた」  わたしはあの手紙に書いてあった文字を思い出す。 「あのとき正直に言えばよかったんだ。おれは尊じゃないって。でもそれを言ったら、美桜はもう会ってくれないと思って……本当のことを言えなかった」  樹くんは車いすに座ったまま、頭を下げる。 「本当にごめん」 「ううん。いいの」  わたしはそう言って、樹くんに笑いかける。 「樹くんの気持ちがわかったから……もういいの」  顔を上げた樹くんが、わたしの顔を見る。そして真剣な表情で、口を開く。
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