第11章 会いたい

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「なんか……照れるな」  その言葉にわたしはパッと体を離す。 「ご、ご、ごめんっ。こんなところでなにやってるんだろうね、わたしっ」  周りを見ると、車いすに乗ったおばあさんが、看護師さんに押してもらいながら、にこにこと通り過ぎていくのが見えた。 「いや、べつに謝らなくていいよ」  真っ赤になったわたしを見て、樹くんが笑う。 「ありがとう、美桜。すごく……嬉しかった」  その言葉に、胸がきゅっと締め付けられる。  樹くんは照れくさそうに顔をそむけ、「行こう」と車いすを動かす。 「あっ、ちょっと待って」  わたしはそのあとを追いかけようとして、ふと足を止めた。  頭の上を覆う桜の木が、ざわっと音を立てて揺れる。  顔を上げると、緑の葉の上に白い建物が見えて、その先に真っ青な空が見えた。 「尊くん……」  尊くんのいる青い空。わたしは祈るように目を閉じる。 「ありがとう」  まぶたの裏に、桜色の景色が浮かぶ。 『美桜ちゃんにも見て欲しかったんだ』  淡い色の花びらを見るたび、わたしは優しかった尊くんを思い出すのだろう。  何年経っても、大人になっても、きっとわたしは思い出すのだろう。  わたしは静かに目を開くと、前に見える樹くんの背中を見つめた。  次の満開の桜は、樹くんと見よう。  尊くんと見下ろした桜を、樹くんと見上げよう。  まだまだ頼りないわたしたちだけど、尊くんはきっと、空から見守ってくれるよね? 「美桜ー! 早く来いよー」  樹くんが振り返ってわたしを呼ぶ。 「いま行くー!」  満開の桜の花を思い浮かべながら、わたしは樹くんのもとへ駆け寄った。
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