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「そっか、樹くん、サッカー部復帰したんだ」
数カ月後、わたしはマフラーを巻いて、莉子と一緒に昇降口を出た。
季節はあっという間に移り変わり、自転車に乗るのが厳しい季節になった。
樹くんはもう退院して、学校にも通いはじめている。
「うん。まだみんなと同じ練習は無理だけど、少しずつリハビリしていくって」
「よかったねー、美桜。心配してたもんね、愛しのカレシのこと」
莉子が冷やかすようにそう言って、わたしに肘をぶつけてくる。
風は冷たく、わたしたちの吐く息が白くけむっていた。
「いやぁ、それはよかった。ほんとによかった」
そんなわたしたちのそばで、ブツブツつぶやいているのは奥浦先輩だ。
さっき廊下で偶然出会ってから、先輩はなんとなくわたしたちのあとをついてくるのだ。
「奥浦先輩……なんか無理してません?」
莉子がニヤニヤ笑いながら、奥浦先輩に言っている。
「いや、おれは樫村さんが幸せならそれでもう……」
「さすがです、先輩! それでこそ、我がサッカー部の王子です!」
「は? 王子? なんだそれ」
「美桜の王子様にはなれなかったけどね?」
わたしの顔をちらりとのぞきこんで、莉子がいたずらっぽく笑う。わたしは苦笑いをしながら、話をそらすように言った。
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