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「あの、先輩。もうすぐ受験でしたよね? 頑張ってくださいね」
すると奥浦先輩が莉子の隣からひょこっと顔を出し、キラキラした目でわたしを見る。
「樫村さん……ありがとう。きみは天使か?」
わたしはまた苦笑いするしかない。
「もしあいつと別れることになったら、おれはいつでもOKだからね?」
「もうっ、先輩っ! 別れるとかありえませんから! ねっ、美桜?」
莉子が間に入ってくる。わたしは笑って答える。
「はい、ありえません。ごめんなさい、先輩」
先輩が「くぅー」っと唸り声を上げて、頭を抱えた。そんな先輩をなぐさめるように、莉子が背中をポンポンっと叩いている。
奥浦先輩はもうすぐ受験だ。志望校に合格したら、この町を出てひとり暮らしをするのだと言う。
わたしの一年後はどうなっているのだろう。
わたしも生まれたこの町を、出て行ったりするのだろうか。
樹くんは、どうするのだろう。
また離れ離れになるのは寂しいけれど、いまのわたしたちなら、どんなことでも乗り越えられる気がする。
自転車置き場の前で、先輩と手を振って別れた。
莉子と自転車を押しながら、校門を出る。冷たい風がひゅうっと吹いて、体がふるりと震えた。
「じゃあ、また明日」
「うん、明日」
莉子といつもの場所で別れた。一年後も莉子とは、こうやっていられたらいいなと思う。
ペダルを踏み込み、白い建物の下を通り過ぎる。
冷たい風に吹かれる桜の木は、寒い季節に耐えながら、あたたかい春の日を夢見ているようだった。
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