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第12章 これからもずっと……
尊くん、お元気ですか? わたしは元気です。
いまわたしは満開の桜を眺めながら、このお手紙を書いています。
尊くんのいる場所からも、この桜は見えますか?
ふわっと春の風が吹きこんで、机の上の桜色の便箋が飛ばされそうになる。
わたしはお気に入りのペンを置き、窓を閉めようと横を向く。
目に映ったのは、たくさんの桜色。
わたしの家の前の公園は、いまちょうど桜が満開を迎えている。
尊くん、わたしは高校三年生になりました。
ピコンッと電子音が聞こえて、机の上に置いたスマホを見る。
画面に一通のメッセージと、送り主の名前が現れる。
送り主の名前は、天城樹――わたしの彼氏だ。
樹くんは最初、SNSはやっていないと嘘をついた。
わたしの前では尊くんになりすましていたから、名前が表示されるとまずいと咄嗟に思ったようだ。
あとで聞いた話によると、尊くんの苦手なメロンソーダを注文してしまったときと、「左利き直したの?」とわたしに聞かれたときは、正直焦ったと言っていた。
本当は苦手な甘口カレーも、ちょっと無理をして食べたらしい。
いまではそんなことも、笑いながら話せるようになったけれど。
メッセージの画面を開くと、見慣れたサッカーボールのアイコンがわたしに話しかけてきた。
『もう着いたよ』
「えっ、もう?」
わたしは時計を確認する。待ち合わせ時間にはまだ早い。
一度閉めかけた窓を慌てて開くと、桜色の景色の中、樹くんがわたしを見上げて小さく手を上げた。
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