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「お姉ちゃん? どこ行くの?」
バタバタと階段を駆けおりると、洗面所から出てきた陽菜とばったり会った。陽菜は長く伸ばした髪を、くるくると丁寧に巻いている。ほんのりと、メイクもしているようだ。
姉のわたしが言うのもなんだけど、陽菜は最近すごく綺麗になった。もしかして彼氏でもできたのかな? 中学生のくせに、生意気だけど。
「うん、ちょっとね」
「ちょっとってなに? また樹くんと会うのー?」
陽菜が大きな声で言うから、わたしは恥ずかしくなる。
陽菜にはお母さんからだけじゃなく、わたしからもちゃんと、尊くんと樹くんのことを話してあった。
陽菜は尊くんに会ったことがなかったけれど、彼が亡くなったことはかなりショックだったようで、しばらくはわたしのことをからかってこなかった。
でも樹くんが何度か家に遊びに来てからは、なにかとわたしをひやかしてくる。
「陽菜こそ。彼氏できたんじゃないの?」
「えっ」
めずらしく陽菜が慌てている。やっぱりわたしの予想は当たっていたようだ。
「今度ウチに連れておいでよ。お姉ちゃんからも挨拶したいから」
「べっ、べつに山田くんは彼氏ってわけじゃ……」
「山田くんっていうんだ。へぇー」
陽菜の顔が赤くなり、もごもご言い訳を言っている。
こんな妹のこと、わたしはけっこうかわいいと思う。
「美桜ー? 出かけるの? 朝ご飯は?」
わたしたちの声を聞きつけたお母さんが、キッチンから顔を出してきた。
「ごめん、いらない。樹くんが待ってるの」
「ちょっと待ちなさい。そんなに慌ててると危ないよ」
お母さんはあいかわらず心配性だ。だけどそれはわたしを大事に思ってくれているから。
わたしはもう、「事故に遭ってよかった」なんて、二度と思わない。
玄関の前で立ち止まり、ゆっくりと深呼吸をして、わたしはお母さんに振り返る。
「大丈夫。慌ててないよ。いってくるね」
キッチンから出てきたお母さんが、そんなわたしに言う。
「いってらっしゃい。気をつけてね」
「はい。お母さん」
微笑んだお母さんに、わたしも笑みを返した。
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