459人が本棚に入れています
本棚に追加
家の外へ一歩出ると、春の甘い匂いがした。
あたたかい風がふわっと吹いて、肩の下まで伸びたわたしの髪を優しく揺らす。
狭い道を渡った先は、桜の花が咲く公園だ。
その桜の木の下で、樹くんが待っていてくれた。
「おはよ」
樹くんがわたしに向かって言う。
「おはよう」
わたしは樹くんに駆け寄って、笑いかける。
足の怪我がすっかりよくなった樹くんは、この春、わたしと同じ高校三年生になり、元気に学校へ通っている。
「本当にここ、桜が綺麗なんだなぁ」
樹くんが顔を上げてそう言った。
わたしたちの頭の上では、桜の花が堂々と咲き誇っている。
「うん。いいでしょう? わたしの部屋からもよく見えるんだよ」
「部屋でお花見ができるって、よく自慢してたもんな」
「自慢じゃないってば」
わたしが怒った顔をすると、樹くんがくくっと笑ってから、わたしに右手を差し出した。
最初のコメントを投稿しよう!