第12章 これからもずっと……

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「約束のあれ、見せて」  わたしはちょっとドキドキしながら、肩に掛けたトートバッグの中からノートを取り出し、樹くんに渡す。  ノートを受け取った樹くんは、わたしの顔をのぞきこむようにして聞いてきた。 「ここで見ていい?」 「だ、だめっ! 家に帰ってから!」 「はいはい」  樹くんは適当にうなずいて、背中からリュックをおろすと、その中に丁寧にノートをしまった。 「あの、つまんなかったら、つまんなかったって言っていいからね?」  顔を上げた樹くんが、わたしを見る。 「そ、それに、無理して読まなくてもいいから」 「無理なんかしてないよ。おれ、美桜の小説読むの、楽しみなんだ」  頬がかあっと熱くなる。 「美桜が頑張って書いてるの、知ってるし」  一作目を書き上げたあとも、わたしはコツコツと小説を書き続けていた。  莉子にはそれをこっそり打ち明けた。でもまだ書いたものは見せていない。樹くんだけずるい、なんて拗ねていたけど、照れくさいのだ。  陽菜やお母さんには、書いていることさえ話していない。いつか話すときがくると思うけど、やっぱりまだ恥ずかしくて言えない。  だからいま、わたしの小説の読者は、樹くんだけ。  樹くんに見せるときも、ものすごく勇気がいるのだけれど。 「あ、そうだ。次の試合、おれ出るから」 「えっ」  顔を上げると、樹くんがちょっと照れくさそうに頭をかいた。 「来週の日曜日なんだけど……見にくる?」 「行くっ! 絶対行くよ!」  わたしが力を込めて言うと、樹くんが笑った。  わたしの大好きな、樹くんの笑顔だ。  樹くんにはこうやって、笑っていて欲しい。これからもずっと、笑っていて欲しい。 「でも美桜に見られると思うと、緊張するなぁ」 「絶対勝ってね! わたし全力で応援するから!」 「プレッシャーかけるなって。あー、ヤバい、なんか緊張して手ぇ震えてきた」  そう言って、樹くんが手のひらを広げ、いたずらっぽい顔でわたしを見る。  わたしはそんな樹くんに笑いかけてから、そっとその手を握る。  樹くんの手はあたたかかった。ほんわかと心の中まであたたかくなる。 「美桜の手……あったけぇ……」  樹くんが笑って、わたしの手をぎゅっと握り返してくれた。
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