第2章 欲しかった答え

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「樫村……美桜さん?」  名前を呼ばれてドキッとした。立ち止まったまま、ゆっくり振り返ると、男のひとが困ったように少し笑った。 「ごめん、突然呼び出したりして。びっくりしたよな?」 「いえ……」  わたしは体を後ろに向けて、教室の中を見る。そのひとの顔は、恥ずかしくてよく見ることができない。  ただ風が吹くたびにふわふわと揺れるカーテンだけが、目についた。 「おれ、サッカー部の奥浦って言います。樫村さんが莉子と一緒にいるところ、よく見ていて……」  静かな教室の中に、奥浦先輩の優しそうな声が響く。  テスト前で部活が休みの今日は、吹奏楽部の楽器の音も、グラウンドに響く運動部の掛け声も聞こえてこない。  わたしはうつむいて、いま聞いた言葉を頭の中で繰り返す。  莉子と一緒にいるところを見ていたって……どうして?  教室でも目立たない、なんのとりえもないわたしのことなんか、見ても仕方ないのに。 「それでおれ……樫村さんのこと……かわいい子だなって思って……」 「えっ」  思わず声を上げてしまい、わたしは慌てて口元に手を当てる。  奥浦先輩も少し焦った感じで、手で髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜたあと、急に背筋を伸ばしてわたしに言った。
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