Another story 獅音の見た景色②

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ある日、 やっぱり 何かを報告したくて 坂を途中まで下ってきたけど 辺りは もう 薄暗くて 小川硝子社の三角屋根は見えなくて 獅音は諦めて帰ろうと 坂を登り始めた時 車のヘッドライトと自転車のヘッドライトが 目に入り、 逆光で 自転車に乗っている人の姿は見えなかった。 自転車の彼女は 何かを話していたが 車が、ププッと クラクションをしたので 彼女の言葉は 聞き取れなかったが (響ちゃん、楓の女将さんに 何 貰ったの?) 獅音が聞き取れたのは 自転車の後ろにいた 男の子の声 「チロルチョコだよ。 おえ、このチョコ すきなんだよなぁ!」 「そう、良かったねッ!」 それは紛れもなく 潤子の声だった。 獅音は息を飲み 心拍が上がっているのを感じている。 潤子が言う 「そう、良かったねッ!」 は、本当に嬉しそうな顔で 自分の事のように喜んでくれる様が嬉しくて 獅音が度々 この場所に足を運んでいたのは 「そう、良かったねッ!」 潤子に、そう言って欲しくて 何度もこの景色を見に来ていたのだから。 獅音が急いで振り返ると 自転車は 坂の ずっと、ずっと 下まで 行ってしまっていた。 でも…。 獅音は、追いかける事も 呼び止める事も出来ない。
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