《1-①》 予感 ・進路

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潤子が初めて予感を感じたのは…。 高校 3年生の夏休み前、 大学の進路指導で 母親を交えての三者面談をする時の事。 その夏の日。 三者面談だというのに母親は 時間になっても学校に来ず、 潤子は1人で廊下の椅子に座り 母が来るのを待っていた。 その時、 潤子は何故か 自分が大学に行けない予感がした。 約束の時間より かなり遅れて来た母は 眉間に皺を寄せていて 流れる汗をハンカチで拭いながら 「ごめんだよ…。」 と、ポツリとそう言って 言われた潤子は小さなため息を吐き 三者面談が始まった。 潤子が志望していたのは 都心にある女子大。 2つ上の姉も、現在 そこに在学中だ。 2つ上の姉、園子は その女子大に通い始めて 激的にオシャレになった。 そう、都会の女…? 兎に角、潤子は姉の変貌ぶりを、見て 自分も同じく その女子大に行きたい事を希望していた。 三者面談の前の、事前調査で 潤子は予め 担任に志望校を伝えていた。 担任はその女子大の学校案内のパンフを広げて 話しを始めようとしたが 母がそれを遮った。 「潤子には 就職して貰いたい! 先生、この子に、 良い就職先を紹介してあげてください!」 予感…。 潤子の予感は的中した。 三者面談の 3日前から 父親が帰宅していなかった。 でもそれは…。 よくある事と、タカをくくっていたのだが。 母の話しでは この、三者面談に来る前に ヤミ金の取り立てに乗り込まれたらしい。 借金自体は、大した額ではないのか 今後、父親が遠洋漁業船に乗る事で どうにかなるらしいのだが…。 借金の返済が済むまでは 母親のパートの収入だけで 家計を賄う事になったようだ。 潤子は唇を噛み 「お姉ちゃんも、大学辞める!って事?!」 母は何度も頭を下げて 「いやぁ…。 お姉ちゃんは、もう半分まできてるしね…。 それとね、潤ちゃん…。 本当にごめんだよ…。 浩くんは男の子だからね、 大学に行かせてやりたいんだ…。」 潤子の1つ下に、弟の浩司がいる。 潤子は、ポロリと ひと粒 涙がこぼれた。 (なんで私だけ? なんで、私だけ 就職しなきゃいけないの? 何で、私がお姉ちゃんや弟の学費を稼がなきゃいけないの?) ま、 でも こんな展開になって 1番驚いていたのは担任だろう。 真っ黒な家庭の事情を聞かされた上に 急な進路変更だ。 それでも 担任は一瞬 「福島さんは、どうしたいの?」 最後、語尾は消えそうな 小さな声になっていたけど。 こんな事態で、潤子にどうしたいかを 尋ねるのは酷だと思ったのか 担任は潤子の顔を見ていなかった。 潤子は志望していた 女子大に行く事も、都会に行く事も 叶う事はなく…。 潤子は地元の 木原建設に入社した。 よくよく考えてみれば 高校も地元だったので…。 電車通学、通勤をする!という 小さな夢まで 奪われていた。
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