11人が本棚に入れています
本棚に追加
「お前ってモテるっけ?」
季節は春、4月の半ば。桜が咲く、暖かくて心地良いひととき。
通勤電車に揺られながら、横の席の鵜飼が訊いてきた。
ここはそんな都会じゃないから、通勤で慌ただしい朝も満員電車にはならない。がらっとして殺風景な電車の中で、快適に座って過ごせる。
「んー、ギャルとかウザイ奴によく声かけられるよ。昔も今も」
「うわー、羨ましいわ。顔良いと人生勝ち組だよなー」
「全然。むしろ負け組だよ、好きでもない奴にベタベタされて気持ち悪い。俺のまわりヤンキーばっかだったし」
「ヤンキー?へー、お前も元ヤンだったりすんの」
「それはないよ。でもまわりが酷かったんだよね」
たわいのない話をするのは鵜飼と俺だ。
俺は、昔は全く気づかなかったけど、俗に言う世間での「イケメン」らしい。おかげで小さい頃からまわりに女が集まってきたり、陰でなんかコソコソ言われたり、知らない人に声をかけられる事は日常茶飯事だった。
人にはそれぞれモテ期とかがあって、全くない人もいるけど、俺は自分の人生こそがモテ期だった。普通の大学を出て、今は社会人生活3年目の25歳だけど、しょっちゅう逆ナンされたりスカウトされそうになる。
俺は大人数でワイワイすることも目立つ事も好きじゃないから、大迷惑だった。
「ふーん…てことはお前、モテるの嫌なんだ」
「そ。顔交換する?」
「したいのはやまやまだけど無理だろ~」
鵜飼は俺の同期だ。同じ会社に勤めていて、同学年で仲良くなり、今では休日に一緒に遊びに行く仲だ。
学生時代の校区は違ったけど偶然家が近く、通勤電車は大抵一緒。平日は毎日、鵜飼となんか会話しながら通勤している。
鵜飼はフツメンで、かなりのモテたがりだ。性格は悪くないと思うんだけど、彼女のいた事がないらしい。
鵜飼が俺の顔を見て尋ねてくる。
「てことはさ、その様子じゃお前、付き合った事とかないの?」
「ないよ。告白された事はめちゃくちゃあるけど、マトモな奴全然いなくてさ。あいつら顔しか見てないんだよ、絶対裏でなんかヤバイ事考えてる」
「…なんとなく察したよ」
実は俺も人生で付き合った事がない。でも告白された回数は正直、俺の右に出る奴はいないと思う。単純に、良い相手が居なかっただけだ。
…でも。
桜咲き誇るあの日、1度だけ。
真面目な告白をされたんだ。
「なあ花瀬、嫌じゃなかったらさ、お前の学生時代の話聞かせてくれよ」
「ん、いいよ。そういえば俺さ、1回告白された事あるわ。真面目に」
「えっそうなの?じゃあその話聞かせてよ」
「オッケー」
俺は、ぽつりぽつりと昔話をし出した。
最初のコメントを投稿しよう!