キミの花の言の葉

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「見てよ!あれ(はな)()先輩じゃない?3年の!」 「えっマジ!?…ホントだ!かっこいい~!!」 「目の保養だわ~。なんであんなイケメンなんだろねぇ~」 ここは学校の校門。視界の端っこで女3人組が俺を見てはしゃいでる。 確かこれは中3の冬。俺は公立高校の受験を卒業式の後に控えていて、勉強漬けの毎日の中、忘れ物を学校に取りに来ていたところだ。 俺の事先輩って呼んでるし、こいつらは1年か2年だろう。俺の毎日は陰で女に見つめられ、男に嫉妬されて悪口を言われるばかりだった。 俺はそんな嫌われ者じゃなかったけど、そんなふうに陰口を言う奴もいたんだよね。 こんな俺だけど恋したくない訳でもないし、恋愛感情がない訳じゃないし、彼女が欲しくない訳でもない。これまでに告白された数は数え切れないけど、誰とも付き合わなかったのは理想が高い訳じゃない。まわり(・・・)が悪かったんだ。 今は引っ越して一人暮らしだけど、俺が学生時代に住んでた町はとてつもなく治安が悪かった。ここはホントに日本なのか、…いや、そもそも日本は治安が良いとか言うけどホントに治安が良い国なのかと疑問を抱くような町。大量のポイ捨てされたゴミが道路に散らかり、ぼーっと歩いているとなんか盗まれたり、不良に絡まれる事もしばしば。夜はバイクのエンジン音や不良の騒ぐ声で眠れない。 俺の通ってた小学校や中学校も悪い奴ばっかだった。幸い俺はまだ親や兄がマトモだったのと、俺自身悪い不良なんてダサいと思ってたから真面目な道を外れる事はなかったけど。とにかくまわりは不良がわんさかいて、ガタイが良くなかった俺は殴り合いの喧嘩に巻き込まれて被害を受けてばかり…みたいな事もあった。 俺は色んな女に告白されてきたけど、まわりは不良ばかり。てことは告白してきた女も全員不良なんだ。断ったら仲間からリンチくらったり、ヤバそうな先輩にボコボコにされたりした。でも俺は不良と付き合うのはごめんだ、なんとかして断り続けた。 今はしゃいでる3人組もワルだろうな。まだ背が小さくて幼く見えるのに、髪染めて化粧してスカートはかなりの短さ。制服の気崩し方も半端ない。 不良なんて嫌いなのに、不良に告白されて絡まれる俺の人生。引っ越したかったけど家が金銭的に余裕がなく、ひたすら腐った日々に耐えてた。 「花瀬先輩~!写真撮ってもいいですか~?」 ちなみに花瀬ってのは俺の苗字だ。下の名前は(おう)()。春生まれだからこんな名前らしい、「花や桜って女っぽい」とからかわれる事もあった。 「無理です」 上やバックにどんなヤバい偉い不良がついてるかわからない、誰に対しても敬語で接するのが俺のポリシーだった。一人称も「僕」で真面目さを貫き通す。 「なんでよ~!お願いしますぅ~」 「ほらほら!こっちきてっ」 腕に触れようとしてくる女達を避けると、さっさと俺は忘れ物を取りに校舎に入った。 「うわー…行っちゃった」 「意地悪だね~。でも花瀬先輩ってここじゃ珍しい良い子ちゃんらしいよ」 「マジ引くわ。顔は良いのに残念なイケメンだよね。あれでバイクとか乗り回して授業フケるようなワルだったらなんかかっこいいのにねー」 悪趣味だな、お前らの方がマジ引くわ。心の中で悪態をつきながら俺は自分の教室に辿り着いた。 忘れ物は国語の教科書だ。自分の机の中から引っ張り出して鞄にしまうと、そそくさと教室から立ち去る。 …そこで、とある女と出会った。
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