キミの花の言の葉

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あれは確か、中学校の卒業式の日。 満開の桜が咲き誇る中、いつもはグレてる不良達も少しは嬉しそうにして正装に身を包んで。 卒業証書を胸に、青春を謳歌していた時の事だ。 「好きです!3年間、一緒のクラスで一緒に居られて本当に楽しかった! みんなの言う通り顔はかっこいいけど、その真面目な礼儀正しさが何より素敵でした! まわりの悪さに負けてなくて、かっこよくて仕方なかったです!私の憧れだよ! もう会うことはないかもだけど、またいつか会えたら嬉しいな!」 …びっくり、した。 人目のつかないグラウンドの端っこの桜の木の下に、佐倉に呼び出された矢先には告白されていた。 だが、今まで他の奴にはされた告白とは全然違う…。 …いや、今までのは告白とすら呼べなかったかもしれない。良い顔してるね、じゃー彼氏になってよ、好きな事させてあげるから…なんて。 こんなマトモな人間に、マトモな告白をされた事は初めてだ。こういう意味では、俺の恋愛経験値はゼロだ。 佐倉は俺の事をよく知ってて、よく見てた。3年間一緒のクラスだったとはいえ縁がなく、ちゃんと喋ったのも俺が学校に忘れ物を取りに来た帰り道、花言葉について語ったあの一瞬だけ…。それでも佐倉は、俺が不良に感化されぬよう、不良に付き纏われぬよう、必死になってるとこをしっかり見てた。 「……佐倉」 返事をしなければ。告白の、返事を。 「えっと、あのさ…」 「あっ、返事は良いよ!高校違うし、第一花瀬君ってモテるし…もう、私の告白も忘れてくれて良い…から!」 早口でまくし立てる佐倉に、俺は若干戸惑った。 その瞬間、強い風が吹いた。 傍の桜の木が大きく揺れ、沢山の花弁が宙を舞い、風に乗る。それはまるで桜色のシャワーのようで、優しくて、美しくて。 …でも、その桜吹雪に包まれる佐倉は、より一層綺麗で、華やかで、輝いて見えた。 まあ…元々顔は良いと思ってたけど、ふんわりした雰囲気と合って、なんか…言葉にできない凄さが、こみ上げてきた。 「じゃあね、花瀬君!」 佐倉はそう言い切って俺の返事も待たずに(きびす)を返すと、桜吹雪の中を、暖かくもすぐに過ぎ去る春風の様に駆け抜けていった。 ふと俺は、桜の花言葉を思い出す。 精神の美、純潔、…優美な女性。 思えば、佐倉って、感じは違えど読みは「さくら」だ。 本当に、佐倉は桜の花のようだ。 …キミも、キミの花の言の葉も、優しくて、美しい。 優美な女性だ。 …俺も、こんな佐倉に見合うような、「優美」という言葉が似合うような奴に、なってやろうじゃないか。 桜がつく名前に、生まれた限り。
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