プロローグ/麻衣の回想

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その10 麻衣 そう考えた途端、とてつもない恐怖に全身が覆われた もうここで殺される、私、”おんなじとこ”切り裂かれて… それ想像すると、今、”息してる”自分が愛しくてしょうがない だから恐い、恐いなんてもんじゃない 唇は震えを通り越して激しく痙攣してる 全身からの汗は雨漏りのように、ピタピタと音を立てて畳に滴り落ちてる オシッコもちびりそうだ 冷静に考えれば、目の前の”男”は雲の上の存在だ 鼻たれ小娘が突っ張ったところで、所詮、城壁を超えない弱々しい一本の矢にすぎないよ ここは、泣き崩れて恥も外聞もなく命乞いしたって、ごく自然だ 私の心の深いところで、”この声”を抑えきれないとこまで、もはや至っていた もう、いいや、”目の前の人”に膝まついて詫び入れればいい その間も相馬会長、私の目、とにかく見てる 微動だにしないで、食い入るように 私もとりあえず、視線そらすかって、意地はって”この人”の目をじっと見つめ続けた でも、”この人”はおびえてブルブル震えてる私の胸のうちを、手に取るようにわかってるんだろうな 所詮、役者が違うよな 身の程知らずはまあ、自覚してる 牙を剥いたウサギも、ハナから敵わない相手にはしっぽを振って怯えてるってことか… ザマないわ、クソッ
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