プロローグ/麻衣の回想

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その13 麻衣 スナック風の剣崎さんの店に着くと、私たちは奥のボックス席で”打合せ”をした これ以後、数えきれないほど行うことになる二人だけの”異様な会議”は、これが最初だった 「とりあえず、当面の資金だ。これでまずは、すぐに族を結成しろ。人選とか諸々のことは自由にやれ。お前たちの勢力争いのだいたいは承知してる。墨東会とかってのが、ガサガサ動いてるらしいな。まあ、俺は俺で”絵図”をかいておこう」 いきなり、封筒に入れていない剥き出しの一万円札の束を私の前に置いて、剣崎さんはそう言うと、缶ビールを一気に飲み干した。 私は、まず、どうしても聞いておきたかったことを尋ねた 「あのう、相馬会長は息子さんをあんなことに追いつめてしまった私に、どうして力を貸してくれるんですか?」 「お前はその代償を負うことで、取引が成立した。それだけのことじゃないのか?」 「でも、私、あの場で殺されても不思議じゃなかったし、その相手のこんな小娘にいくらなんでもお金とか、援助してくれる理由が…、さっぱりわからなくて…」 「俺にはわからん。機会があったら直接、聞いてみたらどうだ?まあ、おそらく”それなりの理由”はあってのことだろうがな、ハハハッ…」 剣崎さんは初めて白い歯を見せて笑った。もっとも、ニコッとではなく、ニヤッとだったが さらにビールを一口飲んで、ソファにもたれて言った 「うちの会長は昔から、誰も考えつかないようなことをする人だったからな…。若い頃の、狂気と伝説を知ってる俺たちからすれば、今日の”若の件”もさほど驚きはない。世間からすれば異常だけどな、間違いなく…」 私は身を乗り出すようにして、聞いていた そのあと、剣崎さんは今後の細かい取決めとかをいろいろと話してくれた 週2回、ここに連絡することとか、運転手を兼ねた若い人をつけるとか… それに、この店のそばでアパートも借りてくれるらしい 私にとっては急転直下の逆転劇だったが、別に有頂天になってはいなかった 一時は”死”も覚悟したけど、なぜだか意外と冷めていた しかし、相馬豹一という、とてつもない”奇人”に出会えたことは、感動ものだった かくて、私は強大なバックを得て、”大海原”に出ることとなる
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