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ヒールズリンチ事件の真相/その9
南部
「なあ聖一、もう女も男もない。今からそういう感覚を持ちづづけた方がいい。これは、誰にでもできることじゃない。頭ではわかっていっても、要は心裡の問題だ。口で言うほど簡単じゃないさ。それを、お前ならできると思う。これから先、日本も世の中がガラッと変わっていくんだろうよ。そんな背景が、水を得た女たちをドンと後押しする。で、彼女達はボーンと天にぞびえるハードルまでも飛び越えちまう…。最近はそんなことまで確信を持つようになったわ」
黒原さんはこのオレに、言わば何かを託したかったのかも知れない
その何かとは…
...
「聖一…、盛くんね、アンタが紅ちゃんと手を携えあう仲に持っていけたら引退するつもりだったんだよ」
「奥さん…、それ、どういう意味なんでしょうか?」
「意味も何も、紅ちゃんはもうこの地の猛る女達を発熱させちゃったから、この流れは止まらない。まずはそこよ、聖一。…でよ、アンタ達の集団も無関係ではいられない。仮にアンタたちの前に立ちはだかる存在が現れたなら、彼女たちもその問題の当事者になるよ。望む望まないに係わらずね。そんな考えに達していたのよ、あの世に逝っちゃうちょっと前にはね、盛くん…」
「…」
「この都県境はどんどん女が猛っていく。グループが乱立すればそれなりにいろいろもめ事が出るよ、そりゃあさ…。今は紅ちゃんの存在がそれを防いでるけど、盛くんと同じで、あの子が引退なりって時は今のアンタたちのようになる」
「奥さん…」
オレは相槌程度の言葉しか出なかった
...
「…この地ではさ、もう男も女もなしの、ひと固まりで考えて行く必要があるってこと。その際、何も一つの集団になる必要はない。盛くんの実践した少数グループ併存を土台にして、しっかりした人間がその上にね。でもまあ、それがなかなか難しいのは聖一たちが一番よく知ってるわよね」
黒原さんの未亡人・吹子さんは、ここでちょっと意味ありげな笑いを浮かべながら続けたよ
「…だからね、明確な理念をその上に置けばいいのよ」
理念!
人間の代わりに理念か…
「…そうすれば、何かコトが起きた時もさ、まあ自然と行きつくべきところに辿りつくでしょう。…まあ、これ以上は私なんかの語彙能力じゃ伝えきれない。ここまでで、よくかみ砕いてもらうしかないわね。…時間かかるのを承知で頑張れ、アンタがさ…」
その後、吹子さんの言葉の深意は、オレなりにかみ砕いたつもりだった
その上で、今回の行動ってことだ
まずは正面からぶつかってみないとな
じゃなきゃ、何も始まらないさ
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