19. 楽園

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「楽?」 「ん?」 「楽に久しいで、楽久(がく)」 「楽久?」 「うん。男の子だったら楽久にしよう。女の子だったら悠楽」  驚いた。  悠久が目覚めてから今日までの二週間。  私は子供の名前のことは話さなかった。  二か月間も眠っていた悠久は、検査はもちろん、体力回復のためのリハビリなんかに忙しかったから。  それに、こうして目覚めてくれたのだから、子供が生まれてから考えてもいいだろうと思ったのだ。 「聞こえてたよ、楽の声」 「はる……」 「ありがとう、楽。ずっと待っていてくれて」  私は小さく首を振った。  悠久はふっと微笑む。 「これからはずっと一緒だ」 「うん!」  悠久が僅かに膝を浮かし、顔を近づける。  私もまた、少し前のめりになって目を閉じた。  ちゅっと唇が触れる。 「愛してるよ、楽」 「私も――」  その先の言葉は、悠久の口の中に飲み込まれた。 「あーもーっ!」  昌臣くんの声にハッとして、顔を上げる。  すっかり二人の世界に入り込んでいて、三人の視線を忘れていた。 「俺も彼女欲しい!」 「お前、空気読めよ」と昌幸さん。  おじいさんが、はははと笑う。 「さ、婚姻届を出しに行くんだろう? お祝いのご馳走を用意しておくから、早く行っておいで」 「え? あ、そんな――」 「――ご馳走って? 兄さんが作んの?」  申し訳ないと遠慮しようとしたら、昌臣くんが聞いた。 「いや、手配済み。俺が作るより美味いもん用意しておくから、行っておいで」  三人に見送られて区役所に行き、私たちは夫婦になった。
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