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プロローグ
「あの……」
前と横に人ひとり分の距離を開けて歩く彼の背中を見つめて、声を絞り出す。
「ん?」と、背中が立ち止まる。
彼が立ち止まったのと、私がそれに反応して立ち止まるのとではわずかに時間差が生じ、ひとり分の距離が、半人分に縮まった。
「ごめんなさい。なんか――」
彼の顔を、正面からちゃんと見るのは初めて。視線が交わるのも。
モテるの、わかるな。
『すっごいイケメン、てわけじゃないんだけど、なんかいいんだよねぇ』
クラスの女子がそんな風に言っているのを何度も聞いた。
クラスに限らず、学年の半分以上の女子はそう思っているだろう。
本気で彼を好きな人も、友達として好きな人も、憧れの眼差しを向ける人もいる。要は、みんなに好かれる人気者。
いわゆる『すっごいイケメン』も校内に数人いるが、少し近寄りがたかったり、来るもの拒まずの女好きだったりして、観賞用にされがち。
顔ももちろん好かれる要素ではあるけれど、彼の場合はそれ以上に人柄や雰囲気で好かれているのだと思う。
偉そうに言えるほど、よく知らないんだけど……。
「なんか、巻き添えにしてしまって」
「巻き添え?」
彼はクスッ、と笑った。
「全然?」
「けど、面倒でしょう? 立候補した私の隣の席だったってだけで――」
「――そんなの、早坂のせいじゃないじゃん」
名前、呼ばれたの初めてかも……。
「そう……なんだけど」
「遊んでばっかいないで、早坂みたいに人の役に立てって、神様の思し召しかもな。それに、受験の年に委員やってたら、内申点上がるかな」
「かな……?」
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