プロローグ

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「あ! ワリ。別に早坂が内申点狙いで委員やってるとか、思ってないから」と、彼が半人分の距離を更に縮めた。  私は思わず、半人分後退った。 「去年もやってたろ? クラス委員。誰もやりたがらないのに、偉いなって思ってたんだよ」 「私は……嫌じゃないから」 「そうなの? 面倒じゃない?」 「うん。なんか……。うん。面倒ではないかな」 『誰かの役に立てるのなら』なんて言うと、優等生ぶってると思われそうで、言わなかった。 「部活もしてないし、予備校にも行ってないから」 「そうなんだ? 予備校行ってないのそんなにテストの順位がいいって、どんだけ頑張ってんだよ。すげーな」 「え……?」  予備校に行っていないと言うと、大抵の人には『勉強しなくてもデキる奴っているよな』とか『予備校じゃなくてカテキョ?』とか言われる。  一人で頑張っている、と思ってくれる人はそういない。  だから、嬉しかった。  素直に、嬉しかったの。  好きにならないわけがなかった。  隣の席で、器用な手つきでシャープをクルクル回しているのを眺めていたら、目が合って笑われた。それでも、ずーっと眺めていた。  回るシャープを見ている振りをして、彼の細くて長い指を見ていた。  ずーっと見ていた。  あんまり見ているから、彼がこっそりシャープの回し方を教えてくれたけど、やっぱりできなくて、彼に「すっごい器用そうなのにな」と笑われてしまった。 「指、短くて……」と言うと、彼が掌を私に向けて前に出した。 「俺とどんだけ違う?」と言われて、私もおずおずと手を前に出した。  掌同士が重なる。 「指が短いってより、手がちいせぇんだよ」  私の指先は、彼の指の第一関節までしかなくて、自分の手の小ささより彼の手の大きさに見入ってしまった。
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