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「綺麗な指だね」
「え?」
「細くて長くて」
「そんなマジマジ見られると――」
「――間宮くんらしいね」
「は?」
「なんか……凛々しいって言うか、背筋が伸びる感じ? だけど、あったかくて」
思っていたことが音になっていたと気づき、ハッとした。
「あっ、ごめんね? なんか、偉そうに」
恥ずかしすぎて手を離そうとした時、私の指と彼の指が絡んだ。ビクッとして手から視線を上げると、間宮くんが顔を真っ赤にして私を見ていた。
「早坂にそこまで言ってもらえるなんて、俺の指ってすげーな」
「えっ!? あ! 指だけを褒めたんじゃなくて――」
「――俺の指、好き?」
まさかの問いに戸惑い、視線を逸らすことが出来なかった。絡まる指に力がこもる。
「う……ん」
「じゃあ……、俺のことは?」
どんなつもりで聞かれているのか、わからなかった。
深い意味はない?
からかってる?
違う。
間宮くんは、そんな軽薄な人じゃない。
どんな意味であれ、真剣に聞かれているのだと思った。
だから、私も真剣に答えた。
「好き」
彼の強張った表情が、ふにゃっとくだけた。
「やった」
やった?
その言葉の意味を考えていたら、間宮くんが空いている方の手で私の髪に触れた。正確には、髪を結んでいるゴム。
「髪、解いていい?」
「え? なんで? ダメ!」
私は慌てて空いている手で彼の手を掴んだ。
「ちぇ」
彼は小さく唇を尖らせた。
脈絡のない話の流れに、からかわれているのだと確信した。
「やっぱり、好きじゃない」
彼の問いを真に受けた自分が恥ずかしくて、呟いた。
泣いてしまいそうだった。
「ごめん」
そう言うと、間宮くんがグイッと顔を寄せ、私の頬にキスをした。
「好きだよ」
耳元で囁かれ、心臓が三倍速で跳ねだした。
「だから、いつか、この髪を解かせて」
けれど、『いつか』は訪れなかった――。
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