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ドキッとした。
長く一緒にいたけれど、見たことのない表情で見つめられたから。
男女の情に疎い私でも、彼が私をどんな想いで見つめているのかわかる。
なぜなら、私を見つめる悠久の表情にどこか似ているから。
真剣だけれど、瞳の奥が血走っているような。私の心の奥の奥を見透かすような。
ベッドで私を見下ろす悠久と同じ――。
「お話……ならここでお聞きします」
私は両手でお腹を抱えて、言った。
「子供は……順調かい?」
「え? あ、はい」
「座りなさい。立っているのはつらいだろう?」
「大丈夫です」
「性別はわかっているの?」
「いえ。聞かないことにしたんです」
「そうか。楽しみだね」
見慣れた、穏やかな微笑み。
けれど、今までは感じなかった彼の『男』の匂いにわずかな不快感を持つ。
「楽」
じっと見つめられ、胸の奥でじわっと鈍い痛みというか、重みを感じる。
修平さんもきっと、私が何かを感じ取っているとわかっている。
彼はいつも、私の些細な表情や声色の変化に気づいてくれたから。
それでも、修平さんは視線を逸らさず、ゆっくりと唇を開いた。
私に心構えをする時間を与えるように、不自然なほどにゆっくりと。
「もう一度、家族にならないか」
その声は、私が聞いたことのない低さと、力強さ。
いや、聞いたことはある。
浩一くんの母親と再会した時、この声で彼女の名前を呼んだ。
修平さんが『男』の顔をすると、こんな声で話すのかと驚いた。
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