19. 楽園

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 けれど、向けられたことのない眼差しに驚きはしたものの、それだけだ。  驚いて、少し残念に思う。  今までが、甘えすぎてたのよね……。  私は静かに目を閉じた。  お腹を抱いて、言う。 「私の家族は、この子です」 「その子の父親になりたい」  ふるふると首を振る。 「この子の父親は、悠久です。悠久だけです」 「幼い子供を抱いて、寄り添い続けるのか?」  その物言いに、違和感を持つ。  いくら修平さんがいつもと違う様子だとしても、こんな冷たい言い方は彼らしくない。 「彼が目覚めなかったら? 一人で子供を育てるのか? いくらお祖母さんの遺した金があると言っても、彼の治療費と養育費、生活費に費やせばあっと言う間に底をつくだろう。俺と結婚するのなら、彼はこのまま最善の治療を受けられるし、子供は両親が揃った状況で育つことが出来る。もしも彼が目覚めたら、その後のことはその時に考えたらいい」  違う、と思った。  らしくない、なんて不確定な心象ではなく、ハッキリと、修平さんの言葉ではない、と確信を持つ。  同時に、わかった。 「考えるまでもありません」と、私はかつての夫を真っ直ぐに見て言った。 「目覚めても目覚めなくても、私の夫になる男性(ひと)は悠久だけです。この子がパパと呼ぶのも」 「楽」 「悠久は言ってくれました。私と一緒なら地獄も楽園だ、って。私のいる場所が俺のいる場所だ、って。私も同じ。だから――」
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