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涙が滲む。
歪んで見える修平さんの表情は、過去の私が毎日のように見ていた、穏やかで安心できる微笑み。
「ありがとう、修平さん。……私もあなたを愛していました」
添えられた手を押し返す。
「悠久への愛とは違う種類のものだったけれど、確かに愛していました。あなたも同じように愛してくれていたことも、わかっています」
「……」
修平さんはじっと私を見上げている。
私は少し乱暴に、手の甲で涙を拭った。
ずっと鼻をすすり、顔を上げる。
「今までありがとうございました。でも、これでさよならです。いつまでも別れた夫と繋がっていて、悠久がヤキモチを妬いて目を覚ましてくれないと困るから」
「……っふ」
修平さんが笑う。
私も笑う。
小さく肩を揺らしながら、二人で笑った。
私と修平さんは、互いに罪悪感を持っていた。
結婚した経緯や、子供を為せない事情、離婚の理由。
だけど、これ以上縛られる必要はない。
「元気な子を産むんだよ」
そう言うと、修平さんは立ち上がった。
「果物は一度に持つと重いから、一人で抱えてはいけないよ」
「はい」
私も立ち上がる。
「さようなら、楽」
「さようなら、修平さん」
私たちは、笑顔で別れた。
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