19. 楽園

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 涙が滲む。  歪んで見える修平さんの表情は、過去の私が毎日のように見ていた、穏やかで安心できる微笑み。 「ありがとう、修平さん。……私もあなたを愛していました」  添えられた手を押し返す。 「悠久への愛とは違う種類のものだったけれど、確かに愛していました。あなたも同じように愛してくれていたことも、わかっています」 「……」  修平さんはじっと私を見上げている。  私は少し乱暴に、手の甲で涙を拭った。  ずっと鼻をすすり、顔を上げる。 「今までありがとうございました。でも、これでさよならです。いつまでも別れた夫と繋がっていて、悠久がヤキモチを妬いて目を覚ましてくれないと困るから」 「……っふ」  修平さんが笑う。  私も笑う。  小さく肩を揺らしながら、二人で笑った。  私と修平さんは、互いに罪悪感を持っていた。  結婚した経緯や、子供を為せない事情、離婚の理由。  だけど、これ以上縛られる必要はない。 「元気な子を産むんだよ」  そう言うと、修平さんは立ち上がった。 「果物は一度に持つと重いから、一人で抱えてはいけないよ」 「はい」  私も立ち上がる。 「さようなら、楽」 「さようなら、修平さん」  私たちは、笑顔で別れた。
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