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「今日は風が気持ちいいね」
悠久が眠り続けて二か月が過ぎた。
初めは笑顔で励ましてくれていた医師や看護師さんも、最近では気まずそうな憐れむ視線を向ける。
誰も言わないけれど、このまま目覚めない可能性を囁かれているのだと思う。
私だって、不安がないわけじゃない。
だけど、一年間の昏睡の後に目を覚ました人もいるとネットの書き込みを見た。
悠久はまだ二か月だ。
私は、きっと目覚めてくれると信じている。
「だけど……」
低反発のクッションを敷いたパイプ椅子をいつものベッド脇に置き、腰を下ろす。
「もうすぐ生まれちゃうよ?」
昨日の健診で、子供の体重は二千八百グラムを超えていると言われた。
いつ出産することになってもいいように、準備をしておくようにと指導された。
「早く目を覚まさないと、一番に抱っこさせてあげないよ?」
一定のリズムで掌を叩く鼓動。
その力強さに、ホッとする。
「名前だって……」
こめかみを悠久の肩にのせて、目を閉じる。
このひと月で、この体勢も辛くなり、長い時間はこうしていられない。
「ゆら、ってどう思う? 悠久の悠に私の楽で、悠楽。男の子でも女の子でも使える名前でしょう?」
力強い鼓動と、安らかな寝息。
「けど、私たちの字を使っちゃったら、二人目の時に困るかな……」
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