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こんな風に泣いては、お腹の子供が苦しくなるとわかっているのに、止められない。
「怖いよ、悠久……」
一度はひとりで産んで育てようと決めたのに、こうして悠久を前にしたら、その決意なんて簡単に崩れてしまう。
私の不安が伝わってしまったのか、子供がお腹の中で動き出す。とはいっても、窮屈で動きづらいのだろう。もぞもぞするだけで、一か月ほど前のようなでんぐり返しをするような大きな動きはない。
「ごめんね、大丈夫だよ」
お腹をトントンと叩かれ、返事のようだと思った。
「大丈夫……」
呪文のように繰り返す。
トントン、とまた返事。
「慰めてくれるの? ありがとう」
トントン。
あまりのタイミングの良さに、涙を拭って目を見開く。
お腹に添えた悠久の手が、指の関節が、動いた気がした。
「え――」
顔を上げる。
「はる――――」
しっかりと閉じているはずの瞼が、開いている。ように見える。
自分の目が信じられない。
自分の願望が幻覚を見せているのかもしれない。
「悠久……?」
瞼が閉じ、ゆっくりと開く。
指が、私のお腹を突く。
真っ直ぐに天井を見つめている悠久の目に、涙が光る。
レースのカーテンが風になびく。
日差しがベッドを照らすと、眩しいのか彼の瞼がギュッと閉じた。
動けなかった。
時間が止まったように、体が動かない。
私はただ、悠久の瞳一点を見つめていた。
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