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「楽さん、こんなところにいていいの?」
昌臣くんが目を丸くした。
「悪かったな、こんなところ、で」と、昌幸さんが弟の頭を小突く。
「いいの。待ち合わせしてるから」
「待ち合わせ?」
「うん」
私は大きなお腹を両手で抱えて、一番奥の席に座った。
ふぅ、と息を吐く。
「何にする? ベリーソーダがお勧めだよ」
「美味しそう」
昌幸さんが微笑んで、カウンターに戻って行く。
「珍しいね、楽さん」と、昌臣くんが言った。
「真っ白のワンピースなんて」
「うん」
白いシャツを着ることはあるけれど、白いスカートは穿いたことがない。お腹が大きくなってから着ていたワンピースも、グレーや黒ばかりだった。
「今日は特別なの」
「特別?」
「うん、特別」
昌臣くんはなにが特別なのかわからず、首を傾げた。そして、それを聞こうとしたところで、お店のドアが開いた。
カランカラン、とアンティークのドアベルが鳴る。
私はこの音が、好きだ。
「いらっしゃいませ!」
昌臣くんが元気いっぱいに挨拶をする。
入って来たのは、黒のスーツを着た男性。手には大きな花束。
「お好きなお席に――」
案内しようと近づいた昌臣くんが、ハッとして私を振り返る。
「――待ち合わせ?」
「うん」
男性は真っ直ぐ私の前に立つ。
そして、ゆっくりと床に片膝をつき、胸の前で花束を私に向けた。
何十本ものピンクのバラの花束。
店には、昌幸さんと昌臣くん、おじいさんがいて、私たちを見ている。
「遅くなってごめんな?」
少し困ったように言われて、私は首を振った。
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