19. 楽園

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「楽さん、こんなところにいていいの?」  昌臣くんが目を丸くした。 「悪かったな、こんなところ、で」と、昌幸さんが弟の頭を小突く。 「いいの。待ち合わせしてるから」 「待ち合わせ?」 「うん」  私は大きなお腹を両手で抱えて、一番奥の席に座った。  ふぅ、と息を吐く。 「何にする? ベリーソーダがお勧めだよ」 「美味しそう」  昌幸さんが微笑んで、カウンターに戻って行く。 「珍しいね、楽さん」と、昌臣くんが言った。 「真っ白のワンピースなんて」 「うん」  白いシャツを着ることはあるけれど、白いスカートは穿いたことがない。お腹が大きくなってから着ていたワンピースも、グレーや黒ばかりだった。 「今日は特別なの」 「特別?」 「うん、特別」  昌臣くんはなにが特別なのかわからず、首を傾げた。そして、それを聞こうとしたところで、お店のドアが開いた。  カランカラン、とアンティークのドアベルが鳴る。  私はこの音が、好きだ。 「いらっしゃいませ!」  昌臣くんが元気いっぱいに挨拶をする。  入って来たのは、黒のスーツを着た男性。手には大きな花束。 「お好きなお席に――」  案内しようと近づいた昌臣くんが、ハッとして私を振り返る。 「――待ち合わせ?」 「うん」  男性は真っ直ぐ私の前に立つ。  そして、ゆっくりと床に片膝をつき、胸の前で花束を私に向けた。  何十本ものピンクのバラの花束。  店には、昌幸さんと昌臣くん、おじいさんがいて、私たちを見ている。 「遅くなってごめんな?」  少し困ったように言われて、私は首を振った。
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