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「俺と結婚してください」
大好きで心地良い声が、少し震えていた。
「間宮楽になって欲しい」
嬉しくて溢れる涙が、淡いピンクの花びらを少しだけ色濃くする。
「はい」
私は声を振り絞った。
「間宮楽になりたい」
答えなんてわかりきっていたはずなのに、悠久がホッとしたように肩を落とす。
私もまた、初めてのプロポーズでもないのに緊張し、嬉しくて、涙が止まらない。
静まり返った店内に、パチパチパチと拍手が響く。
「おめでとう、楽さん」
「おめでとう!」
昌幸さんと昌臣くん、おじいさんが笑って拍手をくれる。
悠久は花束をテーブルに置くと、ジャケットのポケットから紺色の箱を取り出した。
そして、蓋を押し開ける。
二つ並んだ指輪はとてもシンプルで、石などはない。緩くV字にカーブしているだけ。
小さい方を親指と人差し指でつまんで持ち、反対の手で私の左手を持つ。
そして、左手の薬指に指輪を通す。
ちょうど一年前も、こうして指輪をはめてくれた。
あの時は、この一年でこんなに様々のことが起こるとは思っていなかった。
ただ、一緒にいたいと願っていた。
妊娠中で浮腫んでいるから出産後にしようと言ったけれど、悠久はどうしても今日、指輪を贈りたいと言って譲らなかった。
指輪がはまった薬指に口づけられ、今更ながら恥ずかしくなる。
次に私が悠久に指輪を通す。
お揃いの指輪が、くすぐったい。
同じことを思ったのか、悠久の口元も緩んでいた。
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