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悠久は東京を出る前に明堂から籍を抜き、間宮の戸籍を作っていた。
お義父さまは「好きにしろ」とだけ言ったらしい。
央さんも「名字が違っても家族には変わりない」と言ってくれたそう。
「新居の方はどうだ? ごめんな? 全部任せちゃって」
帰り道、悠久が言った。
手を繋いで、ゆっくりと歩いていると、後ろから次々と追い越されて行く。
体力が落ちてしまった悠久は、必死のリハビリで杖がなくても歩けるようになったが、歩調は臨月の私と同じペースがやっと。
若いし、すぐに元通りに動けるようになるだろうと言われているけれど。
「ううん? 央さんがお任せパックを手配してくれたから、私は何もしてないよ?」
「そっか」
「足りないものは、ゆっくり揃えていこう?」
「ああ」
悠久が目覚めた直後、央さんの提案でみちるさんと同じマンションで暮らすことになった。
今夜から、悠久もそのマンションに帰る。
「幸せになろうな」
悠久が言った。
見上げると、彼は雲一つない青空に目を細めていた。
「もう、幸せだよ」
「こんなもんじゃないよ」
「そうなの?」
「ああ。全然足りない」
「そっか」
「そうだよ」
「……そうだね」
私は夫の腕に身体を寄せた。
「なあ、楽」
「ん?」
「いい天気だな」
「うん」
青空の下、愛する人と並んで歩く。
それだけで、涙が出るほど幸せだった。
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