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「同感だ」
視線とは反対方向から声がして首を回すと、兄さんが横目で俺を見ていた。
「この場合、一人は俺が抱くもんじゃないか?」
確かに。
みちるさんの膝の上には二人。
「これじゃあ、俺が育児に協力的でないようではないか」
眼鏡のブリッジを指で押し上げ、言った。
「おいでって言ってみれば?」と、望みが薄いと知っていながら言った。
「泣かれたくない」と、兄さんが呟く。
週末しか顔を見ない父親は、双子にとって人見知りの対象らしい。
毎週、泣かれると聞いた。
泣かれないだけマシか……。
父親の立場を考えさせられる結婚式だった。
式の帰りのタクシーの中で、朝から興奮気味だった楽久はすっかり熟睡していた。
タクシーから降ろしても、ベッドに寝かせても、起きない。
「今のうちに着替えちゃお」
寝室のチェストから着替えを出す楽を、背後から抱き締めた。
「どうしたの?」
「髪、解いていい?」
楽は気づくだろうか。
うなじにチュッとキスをする。
「悠久?」
楽久が生まれてから、まだ身体を重ねていない。
だいぶん長く眠ってくれるようにはなったが、まだ夜中に楽久が目を覚ますことがあるし、そういう時に楽は楽久を腕に抱きながら授乳をして、そのまま眠ってしまう。
タイミングが掴めないまま、俺は父親に徹してきた。
が!
ドレスアップした姿を見てから、我慢の限界を感じていた。
「綺麗だよ、楽」
耳朶を食みながら囁く。
「はる――」
「――この髪も可愛いけど……解きたい」
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