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「ホントだねぇ。おむつ取り替えてお水飲もうか」と、楽が楽久の頬にキスをする。
「パパ、おむちゅ」
「……はーい」
俺はすっかりしょげた息子と共に、おむつを取りにソファを立った。
基本、楽久の目が覚めている間は、楽は楽久のものだ。
俺が出勤しないせいで見え過ぎてしまうのだろうが、とにかく物理的にも精神的にも距離が近い。
楽久は常に楽に触れて、触れられている。
おっぱいは卒業したのに、暇さえあれば楽の膝に乗り、おっぱいに頬をすりすりしている。
俺の膝に乗るのは楽がいない時か、楽が忙しい時で、しかも、同じ方向を向いているからすりすりはしない。
で、楽の姿を見つけると、見事なジャンプで俺の膝を降り、一目散に、振り返ることなく楽の胸に飛び込む。
そのくせ、おむつ替えは俺にさせる。
公園に連れてけとか、車のおもちゃで遊ぶ時も俺を指名する。
けど、本を読むのは楽。
ご飯とお風呂と寝かしつけも絶対、楽。
わざとじゃないかと思うほど、子供だと侮れない使い分け。
それを愚痴ったら、「パパが好きだから甘えてるのよ」と楽は笑った。
確かに、俺を嫌がらないだけマシなんだろう。
比較できる子供が央兄さんのとこの双子だけだが、二人は完全に『パパいやいや期』だそうで、抱っこはおろか、みちるさんの姿が見えないだけで泣きだすらしい。
ひと月に一度程度しか会えないことも原因の一つだろうけれど、兄さんがすっかりしょげて萎縮し、双子の顔色を窺っているのもよくないらしい。
だから、双子が俺に懐いていることは秘密だ。
楽久を連れ出すついでにひかりとあかりも一緒に公園に連れて行っていると知られたら、しょげるのを通り越して嫉妬の炎に焼かれそうだ。
そういえば、楽久は兄さんに寄っていく。
あれは、俺と同レベルの扱い……。
いや、それ以下だな。
怒られないとわかっているからか、とにかく扱いが雑だ。
二か月ほど前に会った時は、おもちゃのブロックで何か作れとせがんでいた。で、兄さんが作った家や車を楽久が壊す。そして、また作れとせがむ。
やめ時がわからない兄さんは、二時間付き合わされた。
その間、兄さんが遊びたい双子は、みちるさんと楽の膝から動こうとしなかった。
「おむちゅ!」
「ん? 取り替えたろ?」
ソファで冷めたコーヒーを飲んでいたら、楽久が俺の足元で言った。
寝起きでおむつを取り替えてから、機嫌よく楽の膝に乗ってテレビを見ていたのに。
どうしたのかとカップをテーブルに置こうと身を屈めて、気が付いた。
「んち!」
「だな……」
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