番外編*クラス会

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「楽久、ママが取り替えてあげるから、おいで?」  楽がおむつとお尻拭きを持って来る。 「やっ! パパ!」 「なんで?」 「ママ、やっ!」 「ええぇ……」  一日一度はこの問答をしている。  楽は、おむつ替えなんて汚れ仕事を俺にやらせるのが申し訳ないようで、特にうんちの時はこうして自分がやるからと楽久を説得する。  が、楽久は譲らない。  俺は立ち上がって楽の手からおむつとお尻拭きを抜き取る。 「いいよ、私が――」 「――こうしてる間も匂ってるし。可愛い息子のご指名だからな。ほら、楽久」  楽久はおむつをフリフリさせながら、さっきまで寝ていた部屋に行く。そして、防水シートを広げてドヤ顔で仁王立ち。  つい数日前に、寝転んで取り替えようとして大惨事に見舞われ、それからは立って取り替えろと要求する。 「お前のこだわりの強さと人遣いの荒さは、誰に似たんだ?」  苦笑いと一緒に零れた言葉に、数秒考えこむ。  そして、息子のズボンを下ろした。 「楽のはずねーか」  なんのことだろうと首を傾げた楽久が、ニッコリ笑った。  おむつの処理をしながら、ふと思う。  俺も楽も、自分の子供時代を知る人間がいない。  俺に関しては、親父が少しは知っているのかもしれないが、聞こうとは思わない。  写真……もないか?  俺の写真は間宮の実家にある。  ただ、楽の写真はないだろうから、この話題は出さない方がいいだろう。  それに、写真があったとしても、今の楽の顔ではない。  楽久が生まれた時も、お決まりの『○○はママ似ね』なんて他愛のない言葉に寂しそうだった。  事故以前の楽を知っているのは俺だけ、か。   ふっと、過去の出来事が頭をよぎる。  俺はキッチンに立つ楽にそっと近づく。  楽久はおやつを食べながらテレビを見ている。  架空の生き物がわんさか出てくるアニメ。 「なぁ、楽」 「ん?」  晩ご飯に使うのだろう。  楽は手際よく玉ねぎをみじん切りしている。  トントントンと軽快なリズムで包丁がまな板を叩く。 「生徒手帳、持ってる?」 「生徒手帳?」 「そう」 「持って……る?」  覚えがないのか、楽が手を止め首を傾げた。  その仕草が、ついさっきの楽久とそっくりで、笑えた。  楽は俺が笑っている理由がわからず、キョトンとしている。 「え? なに?」 「いや。可愛いなぁと思って」 「えっ!? 生徒手帳の場所がわからないのが?」 「違うよ」  身を屈めて首筋にキスを落とす。 「東京、行こうか」 「東京?」  脈絡なく話が変わり、意味がわからないといった表情。楽は切った玉ねぎをボウルに入れ、手を洗った。 「岩越と藤井の結婚祝いを兼ねたクラス会をするって」 「そうなんだ。けど、私は――」 「――俺の奥さんてことで」 「え?」
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