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「ごんってした」
「痛いか?」
「いたたくない」
涙目で訴え、こてんと俺の胸に頭を押し付けた。
病院に連れて行かれまいと痛みに耐える姿が可愛くて、おかしくて、可愛い。
「楽久。ママに『いたくない』って言ってみろ
「いたたくない」
「い、た、く、な、い」
ハッキリと、一文字ずつゆっくりと言って聞かせる。
「いーたーくーなーい」
今度は大きく口を開いて見せる。
「ほら、言ってごらん。いー」
「いー」と、楽久が俺の真似をして小さな上の歯と下の歯をくっつけて見せる。
「たー」
「たー」
「くー」
「くー」
「なー」
「なー」
「い」
「い!」
「いたくない」
「いたくな!」
勢いで『い』が飛んでった。
「ま、いっか」
「まいっか」
「それは真似しなくていーんだよ」
「いーんだ?」
二歳を前にして、楽久は何でも真似をする。
毎日何かを覚えている。
新しいことを覚えて、全身で飛び跳ねて喜ぶ姿が、眩しくて愛おしい。
時々、思う。
あのまま目覚めずにいたら、こうして楽久の笑顔を見ることもなかったんだな。
「小児科より整形外科かな」
楽がバタバタと、外出用の大きなバッグを抱えてきた。
「ほら、楽久。ママに言ってごらん」
「ママ! がく、いたたな!」
迷いなく間違っても、ドヤ顔。
「違う、違う! い、た、く、な、い」
「いたくない」
「そうだ。上手に言えたな」
頭を撫でる代わりに、ほっぺにチュッとキスをすると、楽久はにこにこしてソファを飛び降りた。
楽の足元に駆けて行く。
「ママもチューッ!」
ぴょんぴょん飛び跳ねて、ママからのキスをねだる。
「楽久、ホントに大丈夫?」と楽がしゃがんで息子の頭にそっと手を置く。
「いたくない!」
本当に大丈夫だろうかと、楽が心配そうに俺を見る。
「大丈夫だろ」
小さく言うと、楽はバッグを置いて楽久を抱き上げた。
「痛くしないように気をつけてね?」
大好きなママからのキスをもらって、楽久は満足そうにキスを返した。
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